サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ34)

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ふと、隣からそんな声が聞こえた。

その声はいつもの怒鳴り声でも、機嫌が悪い声でもなく
暫く振りに聞いた、彼にしては柔らかく優しい声だった。

「ﾋｨｲｱｱｱｱｯｯ！！？」

ゆっくりと左隣を見ると、いつの間にか噂のかっちゃんがそこに座っていて、思わず間抜け過ぎる声を出してしまう。

すると案の定、かっちゃんは「あ？」と目をプリントから私に移して、眼光を鋭くさせた。

え、ちょ、待っていつの間にっ！？

いつからかっちゃんは瞬間移動出来るようになったんですか？！

マズイマズイマズイ近い。

手を伸ばせばすぐ私に触れられる距離。
いつでも“爆発”させる事が出来る、そんな距離。

ああ、本当に今日が命日なのかもしれない。

今までありがとう、お父さんお母さん。
私が逝ったらオールマイトグッズ全部持ってっていいよ、出久。

「…おい、聞いてんのか、クソA」

私の中で今度は遺書じみた言葉を述べていると、再びかっちゃんの声が聞こえて我に返った。

かっちゃんはﾄﾝﾄﾝととある問題文を指差しながら私の顔を覗き込み、「此処、答え違う」と呟いた。

「え、あっ…えっと…」

「此処はAが答えだ。
選択問題も出来ないのか、クソAは」

どう反応しようか戸惑っている内に彼は正しい答えを教えてくれて、私は慌てて書き直す。

その間、かっちゃんは何も言わず、何もせず、じっと私を見ていた。

えぇぇ…何このかっちゃん。
いつもと違い過ぎて頭の対応が追い付かない。

てゆうか何か、いつもより優しい。
普通に話してくれるし、『クソ』付いてるけど私の名前も前みたいにちゃんと呼んでくれるし。

…出久がいないから、かな。

「あ…ありがとう、かっち…勝己君」

一応答えを教えてくれた事にお礼を述べると、かっちゃんは微かに眉を顰めて不機嫌そうな顔をする。

その顔を見て『終わった』と思ったけど、まだ大丈夫らしく
彼は今度はﾄﾝﾄﾝと自分の肩を指差しで口を開いた。

「肩、いいか？」

「あ…あ、うん。いい、よ？」

だけどその意味がイマイチ理解出来なくて
でも否定したらそれこそぶっぱされそうなので、頷いておくことにした。

するとかっちゃんは「ん」と短く返事をしてから
おもむろに私の肩に頭を乗せて、ゆっくりと目を閉じた。

………………………ん？