サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ30)

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彼女の秘密【一松】ページ30

僕の彼女は嘘を吐く時
必ず言葉の最後に口元に手を当てて、小鳥の囀りのように笑う。

－－－

「AA～！昨日貸したCDどうだった？」

放課後、自由な時間。

疎らに生徒達が教室を出ていく中、Aはとある友人に話し掛けられていた。

僕は遠目からそれをただじっと見つめる。

「ああ、凄く素敵な曲だったよ」

友人に対してAはﾆｺﾘと微笑みを浮かべると
おもむろに手を口元に持っていって、ｸｽｯと楽しそうに笑う。

その仕草を見て、彼女は興味が無かったんだなと思った。

「でっしょー！Aもハマっちゃった？」

「まだ全曲は聴いてないけれど…でも、とてもいい曲ばかりだから、もしかしたらハマるかも？」

「おいでおいで！Aもこっちにおいで！」

暫く楽しそうに談笑していた2人だったが、Aが口元から手を離す事は無かった。

きっと無理しているんだろう。

彼女はいつもそうだ。
心に秘めた本心をひた隠しにして過ごしている。

おかげでクラスの中心人物というポジションを獲得したが、Aはあまり望まないポジションらしい。

今だってほら、ずっと口元に手を当てて、微笑んで。

一見上品に笑っているように見えるけれど
あの仕草は嘘を吐いている時の仕草だ。

多分、癖みたいなものだろう。

彼女も無意識でしているんだろう。

きっと他の皆も知らない。

僕だけが唯一知っている、彼女の秘密。

「お待たせ、一松」

暫くしてAは友人と分かれると、真っ直ぐに僕の所に向かった。

そしてﾆｺﾘと柔らかい微笑みを浮かべる。

「帰ろっか」

「…うん」

僕は重い腰を上げると机の横に引っ掛けてた鞄を持って教室を出た。

その後ろにAもついてくる。

「今日も猫の所に行く？」

「うん…昨日雨だったからちょっと心配」

「そっか、じゃあ急がなくっちゃね」

Aはそう言うと1人走り出して、行ってしまった。

だけど追い掛ける気力も無くって、僕はのろのろと下駄箱へ向かう。

下駄箱に着くと案の定、彼女がそこで待っていて
僕を見つけると「やっと来た」と微笑んだ。

「…ねぇ」

「なぁに？」

「僕の事、好き？」

そんな彼女に、僕はいつも彼女に投げ掛ける質問を、この日も投げ掛けた。

すると彼女は「また？」と苦笑すると

おもむろに、口元に手をやって
小鳥の囀りのように、微笑んだ。

「好きに決まってるじゃない」