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「だが此奴も用済みだ。大臣もあのお方に決まってしまったしね、やる事全て結局無駄になった訳だ。こうなれば今度は現王とその御子息らに取り入るしかないだろう。…此奴も身の程を弁えていればもう少し使ってやったものを。私のしている事が間違っているだの改めろだのいらない口を聞くからこうなるんだ。善も悪もあるか、此方には此方のやり方があるのを理解しない異邦者は困るな」
背筋をゾッ冷たいものが走る。身を硬直させたままゆっくりと視線を背後へやる。野次馬の層から離れた場所。ローブで隠してはいるものの、明らかに高貴そうな服に身を包んだ人物が、遺体を見つめて笑っていた。つまらなさそうに。嘲るように。まるでそこにあったものが使い捨ての道具か何かであったかのように。
隣の従者か何かが其奴の名前を呼んで帰るように促す。名前に聞き覚えがあった。
自分達を陥れたあの貴族。
大方自分に従えば借金を肩代わりするとでも言ったのだろう、死んでも特に話題に上がらない平民にまで階級を落としてから父を手元に置いて良いように使い笑っていたというのか。
去っていくその姿は、あっという間に人々の往来にかき消されていく。
＿＿殺す。
ぎ、と歯を食いしばり、彼らが去っていった方向を睨みつける。拳を型の形に握りしめる。
何故自分達ばかりがこんな目に遭わねばならないのか、という怒り。憎悪。肌の色が違って何が悪い。何故父の努力は、実力は報われなかったのか。父は正しい事をしようとしただけなのに。こんなクズを可愛がる社会なぞ、糞食らえ。
此方には此方のやり方があるんだろう。上等だ、なら同じやり方で殺してやる。苦しめてやる。
この瞬間をもって彼は父の敵討ちを、復讐を決意した。
8年前に心労で母が亡くなり、いよいよ身軽になってしまった彼は職を求めて彷徨った。金を稼ぐ傍「ある貴族」についての情報を収集しその機会を眈々と狙っている最中、必然か偶然か、貧民街で慈善活動を行なっていたスティーブン王子に声を掛けられたのだ。
名前を聞いてすぐにわかった。あの貴族の身内であると。…こんな千載一遇の機会を逃す訳にはいかない。
こうして彼は主から男爵の爵位を賜り、名前を西洋風に「バンフィールド」と改名し従者として雇われる事になった。
別に信頼しているわけでは無い。あの貴族と同じように、ただ利用させて貰っただけ。全ては彼奴をこの手で苦しめ殺すため。そう、その筈だったのに。
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