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Aちゃんは暗い瞳をしていた。
俯いて、自分の指先を見つめる彼女に語りかける。
「…それで、ほんまに俺が幸せになれると思ったん？」
Aちゃんは何も言わない。ただただ、俺の言葉を黙って聞いている。
「俺は、誰がなんと言おうと…たとえAちゃんが本当に悪いことをしても、罪を犯しても、皆がAちゃんの敵になっても、絶対にAちゃんのこと嫌いになったりせえへん。
世界中がAちゃんを突き放しても、俺だけはそばにおって、Aちゃんのこと守りたいねん。
Aちゃんをもう離したくないし、その為ならなんでもする。大好きなAちゃんのためならなんでもできる」
「…でも…」
「でもやないで、勝手におらんくなって…どんだけ必死で探したと思ってるん？…俺が、どんだけ寂しい思いしたと思ってるん？」
思わず涙が溢れそうになって、慌てて下を向く。泣いてるところなんて、Aちゃんには見せたくない。
そう思っていたのに、この気温の中で冷え切った手がそっと伸びてきた。
「…ごめんなさい」
「そんな顔せんといてや」
「っ、先輩、こそ……」
どちらからともなく抱き締め合う。
耳元でAちゃんの押し殺したような泣き声が聞こえて、落ち着かせるようにその背中をゆっくりと撫でた。少し震えているその肩がとても弱々しく感じる。
.
Aちゃんが落ち着くまでに、どれくらいかかっただろうか。雪が止み、心做しか気温も少し暖かくなった頃。Aちゃんをそっと離して、その耳に指を触れた。
「…なあ、それ、もう塞がった？」
「え…ピアスですか、まだ開いてます」
Aちゃんの答えを聞くより前に耳を見て、ポケットに突っ込んでいた袋を取り出した。よれた袋を手渡すと、彼女は首を傾げる。
「これは…？」
「ずっと渡したかってん。開けてみ」
そう促せばAちゃんは袋の中を覗いた。そして勢いよく俺の方を向いて、目を輝かせる。その視線は俺の視線とは交わらず、ズレたところを見ていた。
恐らく視線の先は、俺の耳。
「先輩…」
「…それつけて、待っててくれる？絶対すぐに迎えに来るから」
優しく頭を撫でると、Aちゃんは幸せそうに微笑んで頷いた。
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