【YouTuber】貴方の好きなところ【短編集】

鏡花水月《ぺけたん》 ページ47

「ねえ、来週の日曜って…」

「あ…その日はちょっと」

「そっか…」

君はいつも、俺の誘いを器用に交わす。
瞬きも忘れるほど美しい貴方に、どうしたら触れることが出来るだろうか。

「ごめんね?」

俺には絶対、無理だ。

「ううん、大丈夫」

大丈夫?そんな訳ない。

君がその日、誰に会うかなんて分かってる。
君が俺のことを見てないことなんて、分かってる。

「じゃあ、そろそろ帰るね?」

「え、あ、うん」

俺にとって幻の様な貴方は、俺の物になることなんて無い。
だけどいつも、振り向きざまに、貴方は少し悲しい顔をする。

それはどうして?

荷物をまとめて玄関に立つ貴方。

「まって…!」

その細い腕を掴もうと伸ばした俺の両の手は、惜しくも空を切った。

「ん?」

不思議そうな瞳で俺を見つめる、彼女との間を流れる沈黙。
耐えきれなくなった俺は、"なんでもない"とだけ言って、全てを飲み込んだ。

「そう?じゃあね」

彼女がドアノブに手を掛けた。

「うん、じゃあまた」

それを俺は黙って見ていることしか出来ない。
鈍い音を立てて閉まる重たい扉。
彼女との境界線。
一歩外に出てしまえば、彼女は別の人のものだ。

("また"なんてあるのか?)

儚く散った幻。
もしこれが、悪い夢だとするならば、

どうか、早く覚めてよ。

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