帰宅したら家が燃えておりまして。【三途春千夜】

04　傍若無人 ページ5

家が燃えてから1日目。早朝に上司に電話をすれば、「残業したおかげで君まで灰にならなくて済んだね」と絶妙に腹立つブラックジョークを織り交ぜて笑っている。私はそんなジョークで笑える程心の余裕はない。

しかし、溜まりに溜まりきった有給を使えた良い機会だったのかもしれない。何だかんだ、毎年有休を無駄にしていたし、有給を心置きなく使えるのは嬉しい。

とりあえず1週間丸々有給を取れた今、1番にやる事は警察へ行く事。次にクレカや通帳の再発行をしに行く。その後に、物件探しをして、ある程度の衣類や生活用品を買い足しに行く。

早速出かける支度を……と思うけれど、私の鞄の中に入っているのは化粧直し用のパウダーやリップ類しかなかった。下地がないのにパウダーだけ叩いても意味がない。

大きな溜息をつきながら鏡と睨めっこする。朝起きたら、三途さんは既に出かけてていないし、出かけたくても彼の連絡先を知らないからどうする事も出来ない。……そこが盲点だった。

それに……私、どうして服を着ていないのだろう。確か昨日はお風呂を借りて、三途さんの服を借りて眠りについたはず。

四方八方塞がってて身動きがとれない事に苛立ちを覚えてきていた時、乱暴に扉を開ける音が聞こえた。三途さんが帰ってきたのだとすぐにわかる。

「買ってきてやったぞ、バカ女。」

大きな袋を私の方へと投げてきて、落とさないように受け止める。中を見てみると、コスメやら服やらが入っていた。

「……ありがとうございます。」

「そんなブスな姿じゃどこにも行けねえだろ。俺が見繕ってやったんだから感謝しろ。」

自分が家を焼き払ったくせに……と文句を言いそうになる唇を閉じる。よく見ると、服もコスメもブランド物ばかりだった。流石、怖い人……お金持ちだ。

「あと……早く服着ねえと襲っちまうぞ。」

下を向いて、自分の身体に目をやると自分が全裸だった事を思い出す。

「ていうか！寝てる間に勝手に脱がしたの三途さんですよね！？」

「あ？得体の知れない女の匂いが俺の服につくの耐えられねえから仕方がねえだろ。……文句あんのか？」

相変わらずドスの低い声で圧をかけてくるから、口を噤んでしまう。確かに互いにとって得体の知れない人物だけど、何もそこまで毛嫌いしなくても。

しつこいようで悪いけど、そもそも三途さんが私の家を燃やさなければこんな事にはなってなかったんだからね。……なんて本人に言ったらブチ切れられそうで絶対に言えない。

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