天衣無縫・雪の夜

第33話 ページ41

それから私達は他の演者にも



話を聞いて回った。



登場する演者は全員で十二人。



女性が七名に、男性が五名。



男性のうち一人は主役である村上青年だ。



大きな劇場だから全員に個室の



楽屋があてがわれているのかと思ったが



どうやら村上青年は特別であるらしい。



他の俳優は大部屋の楽屋に集められ



おのおの着付けを再確認したり、



台本を暗唱したり、小道具を



振り回して立ち回りを確かめていた。



聞けばこの演劇の上映時間のうち



ほぼ半分は主役である村上青年の



出番なのだという。



カレあれで売れっ子俳優なのよ、と



女優の一人が云った。



「カレの独演会みたいなもんよ。
台詞の量も段違いだし、立ち回りもあるし」



女優はメイクを確認しながら云った。



「脚本の倉橋さんと随分二人で
打合わせしてたわ。かなり入れ込んでるわね
大道具の子を怒鳴ってたところを
見たって人もいたし」



また別の俳優に訊ねた時はこう答えた。



「誰も本当に殺しが起きるなんて
思っちゃいませんよ」



やや年かさの俳優は香盤(こうばん)を見ながら云った



「これでも客商売の世界です。僻(ひが)み嫉(そね)みは
珍しい話じゃあない。狂信的な劇団の
信奉者だっている訳ですからね。脅迫なんて
一々付き合ってられませんよ。まあ僕なんか
端役(はやく)だから殺すぞと脅す価値もない
脅すなら、まあ、村上くんだろうなあ。
彼は女性の追っかけも多いですから」



そう云って俳優は笑った。

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