第3話 ページ5
ある日何時もの喫茶店でその本を
読んでいると
「嬢ちゃん、お前 、何時もその本を
読んでいるな。そんなに面白いか？」
不意に声をかけられ、私は顔を上げた
背筋の伸びた壮年の男がそこに立っていた。
薄笑いを浮かべて杖をついた、痩せた男だ。
口元に短い髭を蓄えていた。
この店で何度か見た男だ。
面白い、と私は答えた。
髭の男は奇妙なものを見る顔で私を見た。
「変わった嬢ちゃんだ。そんな小説より面白い
話が、世の中にごまんとあるぞ。」
私は返事をせず男を見た。
正直なところどうして自分がこの本を
これほど読み返すのか、相手に説明できる言葉を
持たなかったからだ。
「嬢ちゃん、その本、下巻はどうした。」
私はテーブルの上の本を見た。
テーブルには上巻と中巻が置いてあった。
ひとつその本には大きな欠点があった
私が見つけたのは上巻と中巻だけだったのだ。
おかげでその物語がどんな結末に終わるか、
私は知らなかった。
行けるの限りの古本屋めぐったが、
下巻を見つけることは出来なかった。
持ってないと、私は答えた。
「それで得心が、いったわ、幸運な嬢ちゃんめ。
その小説は下巻がとんでもなく最悪でな。
読んだ後、頭蓋骨から脳を取り出して水洗い
したくなるような代物よ。上巻と中巻だけで
満足しておけ。それがお前の為だ。」
そうもいかない、と私は答えた。
「ならばお前が書け。」と髭の男は云った。
「それが唯一その小説を完璧なままに
しておく方法だ」
私はぽかんとした。
ラッキーアイテム
麦わら帽子
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 91人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
読書日和(プロフ) - あい様、教えて下さりありがとうございます（ > _ < ）修正しておきました (2019年3月9日 7時) (
レス) id: 074c26cf03 (このIDを非表示/違反報告)
あい - あの、19話と20話が同じなんですけど。 (2019年3月8日 21時) (レス) id: ba4bf15776 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：読書日和 | 作成日時：2019年2月19日 21時
