二章『噂に聞く神様は』 ページ11
声のした方を見る。
そこにいたのは、薄い赤茶色の髪を、腰まで伸ばした男の人。……とても愉快そうな笑顔をしていた。両腕を胸の辺りでくんで、部屋の端で、土壁にもたれかかる寛いだ姿。
けれども。
身に付けた衣装は、光沢のある黒衣。銀色をした襟もとと袖の裾には、唐草模様の刺繍が入っていた。同じく銀色の帯には、鳥の刺繍。
身分が高そうな格好だった。……そして、朱姫様とは比べ物にならないくらいの神気を感じた。
(――この人が、大鵬様)
私は直感でそう感じた。
大蛇の背から急いで降りた。
それから。
即座にひれ伏し、翁にあらかじめ習っていた口上を述べた。
「お初にお目にかかります。この度、新たな花嫁として、大鵬様にお仕えすべく使わされました。大神様から見れば不浄の人間。……お気に召さないこともありましょうが、どうかこの身を供物としてお納めください」
「……」
部屋の端にいた大鵬様が動く気配がした。
返事はない。
私の傍まで来た大鵬様は、すぐ隣にいた朱姫様に声をかけ始めた。
「……朱(あけ)……間違いはないのか?」
「それは、わらわより、大鵬殿がご存じのはず」
二人の声は私に向かって降ってくる。
「……確かにこの娘は、いつか嫁に来るであろうと、人里の様子を見て予期はしていたが。……本当に今回、使わされるとは思わなかったぞ」
どうやら、私の年齢を気にしているらしい。
「ちょうど良い年頃の娘に、神通力を持つ者がいなかっただけであろう?」
「しかし……、あの翁も思いきったものだ。自分の身内を生きている内に2人も差し出すはめになろうとは」
「先々代の「お雪」のことか」
「……その妹が産んだ娘のさらに娘……あの翁にとってはひ孫であったろうに」
憐れむような声で、よく分からない話が繰り広げられていたが、大鵬様の許しがないので、顔をあげるわけにはいかなかった。
すると。
「娘、顔をあげるがよい」
そう、ゆったりと、穏やかな低い声をかけられた。
そっと顔をあげると、大鵬様は腰をかがめ、私に視線を合わせようとしてくれていた。
「……此度、そなたを花嫁殿として迎えること、我に異存はない」
優しく落ち着いた、茜色の瞳。その目は温かい表情。
「ありがとうございます」
私は、もう一度、深く礼をした。
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一花(プロフ) - Nonさん» (続)しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした(汗) 夢想力は多少あるかもしれません(笑) Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます! それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません(続く) (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます! ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます! レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます!一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか?凄く物語にのめり込めるので大好きです!あと、誉めるのもとても上手いですよね! (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます! 誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一花 | 作成日時:2014年7月22日 22時