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忘れられた煙草/utu ページ1

ベット横のサイドテーブルの上に置かれた煙草と100円ライター。
手に取って箱から1本取り出し火を付ける。
肺に煙を吸い込むと、慣れない体はゴホリとむせ込んだ。

火のついた煙草を灰皿の上に置いてベットに寝転がる。
目を瞑るとまるで彼がいるかのような感覚に陥る。

最初は嫌いだったこの匂いも、私の体はすっかり彼の匂いと認識してしまい好きになってしまった。
行為の後、必ず煙草を吸う彼に離れて欲しくなくてベット横に専用の灰皿を置いた。
そこで煙草を吸う彼が横で寝る私の頭をよしよしと撫でてくれる時間がすごく好きだった。

今、その手はここにはない。

目を開けて起き上がる。
灰皿に煙草を押し付けて火を消すと、煙と一緒に私の気持ちも消えていくような感じ。
忘れられた煙草、私と同じ。

彼がこの煙草を置いて行ったのが一週間前。
彼の存在を感じたくて毎日1本づつ火をつけては消した。
吸いかけだった箱の中は残り1本、これが無くなったら忘れよう、毎日そう思って火を灯していた。
彼に想いを寄せる女の子がたくさんいるのは知っていた。
だけど2日と開けずにここに来てくれていたから、この煙草が無くなるまでに来なかったら、きっとそれはもう私に飽きてしまったという事。

窓の外では大きな音を立てて雨が降っている。
私と彼が出会ったのも雨の日だった。
雨宿りで入ったカフェで隣の席に座る彼が私の読んでいた小説をきっかけに話かけてきて、それがナンパだと気付いていなかったのを後から知った彼がおかしそうに笑った。
雷が怖いからと、初めて一緒に眠ったのも大雨の日だった。
勿論一緒に眠るだけとはいかなかったけど、彼の腕の中にいると不思議と雷も怖くなかった。

ピカっと白い光の後に雷が鳴る。
布団をかぶりそれに耐えながらたまらない気持ちになる。

もう私を安心させてくれるあの腕はここにはない。

ザァザァと音を立てる雨の音を聞きながら布団から顔を出す。
零れる涙を拭うことなく、煙草の箱を開けた。
最後の1本、これに火をつけたらもうおしまい。

しばらくの間、最後の1本を持って見つめた後、火をつけた。

灰皿に置いた煙草がじわじわ灰になっていくのを見守る。
お願い、まだ消えないで。

まだ私の事を忘れないで。




ついにフィルターまで達したそれにぽたりと涙が零れて、音と立てて火は消えた。

→続→



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ひとちん(プロフ) - NORTHさん» NORTHさんコメントありがとうございます!初めてのギャグがもはや黒歴史になっていたところでそのお言葉…嬉しいです…!よければ短編集2の方もどうぞよろしくお願いします!あそこまでぶっ飛んだギャグはありませんがww (2017年10月29日 19時) (レス) id: 30a8058165 (このIDを非表示/違反報告)
NORTH(プロフ) - 突然ですが初コメ失礼します!ひとらんの回の主人公が面白すぎました…あれですね、貴方様はギャグセンもあるんですね!すごいです!リスペクトです!頑張ってください!(語彙が…無い!) (2017年10月29日 19時) (レス) id: ecb1a421ae (このIDを非表示/違反報告)
ヒメ* - ひとちんさん» こちらこそ(*´▽`*)これからもよろしくお願いいたします! (2017年10月8日 16時) (レス) id: cb678ab533 (このIDを非表示/違反報告)
ひとちん(プロフ) - ヒメ*さん» ヒメ*さんコメントありがとうございます!最近更新サボってますが頑張って更新するので気長にお待ちいただければと思います!感想下さってありがとうございました!これからもよろしくお願いします! (2017年9月10日 18時) (レス) id: 5e55a572da (このIDを非表示/違反報告)
ヒメ* - こんにちは!いつも読んでいます!『総統の愛した甘味屋さん』を読ませていただきました!ひとちん様の書く小説は本当に素晴らしいな、と心から思いました!応援しています!これからも頑張って下さい(*^O^*) (2017年9月10日 9時) (レス) id: ab38d97291 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひとちん | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2017年8月6日 4時

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