小さな願い 4 ページ31
「爺!」
「おぉ、いたかかみさん」
爺は、車椅子に静かに座ったおばあさんを連れていた。
「いたかと聞きたいのは私の方だ。さっきの機械は境内にある。そちらは、あれか?本当のかみさんか?」
「そうだな……見ての通り、妻の具合が急に悪くなってな。これから、土手に来ることも無くなるかもしれん」
いつかは老いて、死ぬ。
何千年も見てきた、人間の、定め。
永遠なんてそこには、存在しない。
どんなに絶対に見えたものも、長い時間の中で確実に変わっていく。
「そう…か」
「これでも、神さん、なんだよな。神頼みというか、なんというか。ひとつ、お願いしてもいいかい?」
「お賽銭」
「もちろん出すよ」
「いや、冗談だ。こっちの世界の金なんて、あっても使わないしな。何だ?神って言ったって、できることなんかほんのちっぽけなことだぞ」
「病気から完全に治るとか、百三十年生きるだとか、そんな大それたことなんて願ってない。残りの私と妻の短い生涯が、幸せであればいい。そう願っているんだ」
「限りあるもの、それを認識した時点から、その幸せは開かれているよ……じゃあ。奥さんも、こんなに長く外にいてはまずいだろう」
死んでいく、変わっていく、有限である。
それこそが、価値、そうじゃないか?
「そうだな」
「…そうだ、爺」
「何だ?」
「ありがとう。…私が見える人に会えて、話せて、嬉しかった。楽しかった」
「それは、私も同じだ」
爺に別れを告げた私は、境内へと戻る。
『おかえりなさい、マスター』
「あぁ、ただいま」
何百年ぶりだろうね。
境内で、誰かが私を待っていてくれたのは。
数十年前までいた神主も、私が見える人ではなかった。
『どうか、なさいましたか?』
「いいや、何も」
49人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あかり - 糸魚川翡翠@京都より帰還さん» 翡翠ちゃんは帯人が好きなんですよね? (2016年2月29日 19時) (レス) id: b06cf0ef99 (このIDを非表示/違反報告)
糸魚川翡翠@京都より帰還(プロフ) - あかりさん» ただいま! そうね、短編集の方ではあまり亜種は書かないからな。 (2016年2月29日 10時) (レス) id: 9384caea49 (このIDを非表示/違反報告)
あかり - 翡翠さん!おかえりなさい!やっぱりヤンデレカイトでしたか! (2016年2月28日 20時) (レス) id: b06cf0ef99 (このIDを非表示/違反報告)
糸魚川翡翠@京都より帰還(プロフ) - あかりさん» YESヤンデレカイト!! ラストの一言ってところがお気に入りです。 (2016年2月28日 11時) (レス) id: 9384caea49 (このIDを非表示/違反報告)
糸魚川翡翠@京都より帰還(プロフ) - あかりさん» 書いてる私のテンションも高かったりしますw (2016年2月28日 11時) (レス) id: 9384caea49 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:糸魚川翡翠 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hisui0327/
作成日時:2015年10月11日 10時