短編小説 /幸せ？/ ページ26
――――『腰にキス』
「…好き？嫌い。好き？嫌い。好き？……嫌い」
彼女の言葉とともに、暗い部屋に一枚、また一枚と黄色い花びらがふわふわと舞い落ちる。
「ねぇ、貴方は、どっち？」
ふふふっ、と笑うと、茎だけになった薔薇――基、薔薇だったものを投げ捨て、彼のもとへ歩み寄る。
「……好きだよ」
何度、この言葉を繰り返しただろう。
「だったらいいの」
何度、この言葉を繰り返したとしても、彼はここから逃げ出すことは出来ない。
暗い部屋。
薄汚れたベッド。
一日三回、運ばれてくる食事。
部屋の隅に申し訳程度に付けられたシャワーとトイレ。
右手と、右足の枷。鎖。
自由の無い、日々。
その生活はまるで、囚人の様で――――
彼女の許可が無ければ、シャワーを浴びることもトイレに行くことも出来ない。
この地下室は、彼女の家の地下にあるものらしい。
しかももともとあったものではなく、彼を束縛するためだけにつくったというのだから更に恐ろしいものだ。
逃げたい。
逃げだしたい。
自由になりたい。家に帰りたい。
その思いは日に日に膨らんでいった。
彼女だって女だ。男の彼に力で敵うはずがない。隙を突けば、逃げだせるかもしれない。
トイレに行くと言って枷を外してもらい、その隙に――！
この際人間性や良心なんてものは捨て去ってしまおう。差し違える覚悟で彼女を振り払わなければいけない。ここから逃げだせるのならば、彼は”殺人鬼”と呼ばれる覚悟さえあった。
考えが、甘かった。
人間性や良心なんてものを先に捨て去っていたのは彼女の方だった。
ひやりとしたものが首に当てられる。冷や汗が一筋背中を伝った。
「嫌い――だったのね、私のこと」
「―――違、」
「私はこんなにも貴方のことを愛しているのに」
身体が固まって動かない。彼女はゆっくりと腕を降ろし、そっと彼の腰にそれを回す。
両手に持つそのナイフの切っ先を、つうっと彼の腰へと刺す。チクリとした痛みが走り、生温かい液体が流れた。
「印よ。私のモノだという、印。この印が無くならない限り、貴方は私のモノ」
カランとナイフを投げ捨てると、その紅い傷口に愛おしそうにキスをする。
「もう、逃げるなんて考えられないでしょう？」
「…………」
「ここにいれば、貴方と私で一生幸せに暮らせる。外の穢れた世界とは関係なく、一生ここで―――」
「ねえ？とっても幸せだとは思わない？」
――――『束縛』
短編小説 /私だけの、貴方/→←短編小説 /雨降って地固まる/
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容姿端麗に生まれ変わり隊(プロフ) - 『頬』と『額』は親しみ感が溢れてていいと思いました(o^−^o) (2019年4月29日 13時) (
レス) id: 26de7c6d79 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - ちなみに頬へのキスは海外だと挨拶に近いですね。私も海外に住んでいるので親しい人とは頬にキスします。 (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - 月が綺麗ですねから来ました！！鼻梁は鼻筋の事ですよ。面白かったです！こんなことをしてくれる彼氏が欲しいです。続編も楽しみにしています！頑張ってくださいね！！ (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
零ーﾚｲー(プロフ) - とりあえず完結しました〜！皆さま本当にお付き合いありがとうございました<(_ _)>近々続編を作るつもりなのでそちらも是非よろしくお願いします！ (2017年2月11日 23時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
零ーﾚｲー(プロフ) - のわあああ、意味が意味なのでヤンデレ続きになって申し訳ないです……全然純愛じゃない…キスの格言に相応しくない…… (2017年1月31日 20時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：零ーﾚｲー | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時：2016年8月31日 18時
