7 ページ9
Aがにこりと兎のぬいぐるみを見て微笑んだ時、敦を含む4人の疑問は更に増えていった。
4人を代表するかのように敦が声を硬くしてAに話を聞こうとした。
「あの……君って、一体———」
『ありがとうございます、手間を掛けてしまいましたね』
Aは父である草太に似た柔らかい笑みを浮かべながら、4人の目を見て頭を深く下げた。
『先程も言いましたが、私の名前はA。宗像Aです、この子はダイジン』
「えっと、僕は中島敦です」
敦を筆頭に4人がそれぞれの名前を言うと、Aは4人の名前を口の中で転がすように小さく繰り返し、ふわりと微笑んだ。
「クニャー」
「「「「わっ!」」」」
その時、突然全員が座っていたベンチのすぐ側にあったテーブルの上に小さなシルエットがあった。
そのテーブルにちょこんと座っているのは、小狐だった。
『この光景、ずっと前にお母さんから聞いたような……』
「A?」
Aとダイジンがそう話している最中、敦はベンチに兎のぬいぐるみを置くと、その小狐に近づいて言った。
「太宰さん、この子痩せすぎじゃないですか?」
「そうだねぇ……」
手のひらサイズのその小さな体は骨張ってげっそりと痩せており、黒い目だけがぎょろりと大きかった。
「あっ、ちょっと待っててね」
敦は公園に設置されている水飲み場から、水を汲んで自身の使い古しても使用している鞄から、綺麗なタッパーに水を入れると、何かないかとカバンを漁り、たまたまなのかチーズを取り出した。
子狐はスンスンと敦の手に乗せられたチーズの匂いを嗅ぐと、慎重にひと舐めし、それからガツガツと食べ始めた。
「相当お腹が空いていたんだね」
敦たち4人は、子狐の周りに集まって肋の浮き出た体を眺めると、この辺りでは殆ど見かけない動物だと思った。
「お前、もしかしてあの地震から逃げてきたのか?怖くはなかったか?」
「ぷぷぷ……中也が動物に話しかけてる」
「あぁ!?糞太宰……テメェ……」
子狐は4人の顔を真っ直ぐ見つめると、またもや「クニャー」と答えた。
「お前、利口だなぁっ!」
「太宰さん、この子社で飼いませんかっ」
「いいと思うよ……君、私達の社の子になるかい?」
太宰がそう子狐に話しかけると、子狐は「うん」と答えた。
「「「へ?」」」
「僕は、夢でも見ているのか?」
子狐から返事が返ってきたその異様な光景に、Aとダイジンは微かに目を見開いていた。
159人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
虚無虚無ぷりん - すずめの戸締りも文ストも好きなので嬉しいです!応援してます! (2023年2月2日 11時) (レス) @page6 id: d13357cef5 (このIDを非表示/違反報告)
7 - うわぁ、待ってください。好きです((応援してます! (2023年1月31日 17時) (レス) id: 9d95f1ffe8 (このIDを非表示/違反報告)
nemuruneko0315(プロフ) - 更新楽しみにしてます! (2023年1月30日 15時) (レス) @page2 id: bad30b3ef3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:シフォンヌ | 作成日時:2023年1月30日 0時