その声に耳を澄ませて【黒】

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Ren side

女性側から好意を寄せられることが人より少し多いということは、自覚している。
それがなぜかは分からないけれど。何を見ているんだろう？何を知って『好き』だなんて感情を持つのだろう。
普通に、ごく普通に生きてるだけなのに。
もし顔だけで判断されているのだとしたら、虚しいだけだ。


あの日も。
同じ部署で良くしてくれている先輩の隣にいた人。
直接会ったことも話したこともないのに、俺のことを気になってると言ってきた。
見た目は俺なんかが相手にしなくても困らないんじゃないかと思うくらいの、なんというか"女"を武器にしているような雰囲気で。
綺麗だけれど、若干引いてしまった。
やんわりと誘いを断ると、動揺も見せずににっこりと笑ったまま「見かけたら声くらい掛けてね」と言って、すんなり引き下がっていった。
大人の女性から見れば、からかってみようかと思っただけの対象に過ぎなかったのかもしれない。



だから、その後に壇上で講師をしている人があの時の"Aさん"と同一人物だと気付くまでに時間がかかった。
清潔感のあるまとめ髪、シンプルだけど体に馴染んでいるスーツ。心地良く響く少しアルトな声。
目の前に映る姿はあまりにも雰囲気が違っていて整理が追いつかない。




「目黒ってああいう人タイプ？」


隣に座っていた同僚がコソッと耳打ちしてくる。


「え？」

「綺麗だもんなー。分かる。仕事できるし、優しいし」

「なんでそんなこと知ってんの」

「前に先輩の手伝いで会ったことあるから」

「ふーん…」

「マジで気になってんの？」


食い気味に聞いてくる同僚の言葉はあえて聞き流す。




その間にも変わらず明瞭な声が心地良く響いていた。

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