#58 ページ11
＊
とうとう言ってしまった。
保健室で。告白にしてはちょっと味気ないけど言わずには居られなかった。
足を怪我したセンパイの顔にクマがあった。いつも寝てるセンパイには珍しいこと。実際寝たと言っていた。
それでも取れないクマは睡眠時間が少ないから。そしてそれはきっとボクシング絡み。そう思った。
そして。私の勝手だ、と言われた。
確かにそうかもしれない。けど、それは寂しかった。少しでも関わっていたい俺からしたら必要ないって言われてるようで嫌だった。だから言った…………のに。
「…………………どういう意味だ？」
「は？」
「その、許せないとか大事とか、どういう意味だ？」
「……………………………」
黄瀬は思わず真顔になった。だって好きだと言ってるような臭い台詞を吐いたのにこの人、全くわかってない。
冗談として捉えたとか、そんなレベルじゃない。首を傾げて、俺を見てる。確実にわかってない。
本当にこの人は……………
頭を抱えたくなった。ここまで鈍いのはある意味絶滅危惧種並に貴重だ。俺は未だに首を傾げてる朱センパイの頬から手を滑らせて頭に持っていった。
「……………なんちゃって」
「へ？」
「センパイが自分のこと考えてくれないんで、ちょっとからかいたくなっただけっすよ！俺、演技派っすか？」
「演技？からかいたい？なんの事だ？」
「ふふ、それはセンパイが考えてくださいっす。よし、じゃー俺は戻るっす。
センパイはもう少し休んでから戻ってください、俺伝えときますんで」
「あ、え？」
「また、あとでっす」
俺はそれだけ言って保健室を後にした。
初めての告白、不発。それに多少なりともショックを受けながら。
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作者名：O | 作成日時：2021年10月29日 16時
