プールサイドの白鳥 (ページ7)

今日:9 hit、昨日:21 hit、合計:115,253 hit

７ページ7

You side

「通用口ならこっちです」

背中越しに聞こえた声

え…

「通用口の方、行きたいんですよね」

制服姿の彼はそう言った

「そうです！」

あっけにとられながらも少し食い気味に返事をした

「ならこっちですよ」

そう彼は言った

…世の中には案外救世主は転がっているんだ

とはいえ、高校生に道を教えてもらう教育実習生なんているのか…

恥ずかしさで彼の2メートルぐらい後ろをうつむきがちに歩く

「危ないですよ」

頭上から聞こえる声

「え」

そう言いながら顔を上げると彼の顔

…通用口を開けてくれている彼にまたもやぶつかるところだったのか…
本当にもう面目ない…

彼が開けてくれた通用口の門を「何から何まですいません…」と言って通る

通用口にはガラス窓の窓口みたいなところがあり

守衛さんが少しうとうとした様子で座っていた

どうしていいかしどろもどろの私に替わって彼がガラス窓をノックした

すると守衛さんは目を覚まし、ガラス窓を開けた

「あー、おはよう、今期も早朝補講か、頑張るね～」

そう彼に声を掛けた守衛さんは、朗らかそうなおじいさんだった

彼も

「早朝は、そう調子良くありません」

と少しにやりとした顔で言い放った

すると守衛さんは笑い出し、「うまい！」と言って彼に飴を1つ渡していた

「あ、あと…」

そう言って彼は体を少し傾けて、守衛の方に私を見せた

「ん？どちら様？」

そう守衛さんさんが頭の上にクエスチョンマークを掲げるので

私は勢いよく挨拶をした

「あ、あの！！！！本日からお世話になります、Aです！」

すると守衛さんは納得したように

「教育実習の方ね、職員室に向かってって、指導教諭の先生から言われていた…
あ、守衛の牧野って言います。よろしくね～」

と通してくださった

「わかりました、ありがとうございます！」と私は言った

その隣で「教育実習生だったんだ」とそう言った彼の小さな独り言を私は聞き流すことにした