カタコトリコ2 (ページ7)

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真実_テヒョン視点ページ7

俺はキム・テヒョン。

高校1年生。

昔事故で記憶をなくした。

なんにも分からなかった。

言葉はわかったけれど、目を覚ました時周りにいる人間が誰でどんな人なのか分からなかった。

実の兄のジニヒョンも父親も忘れた。

__でも、たった1人だけ覚えてた。

イ・A。

会いたくて会いたくてすぐそばに来て欲しかった。

俺がAの名前を口にしようとした時、看護師が入ってきた。

そして俺のところにいた医師に恐ろしいことを言ったんだ。

「Aちゃんが目覚めましたが、やはり何も覚えていなくてテヒョン君よりも深刻な状態です。何も覚えてない。誰一人覚えていないんです。言語も危うく、日本語と韓国語が混乱しています。」

俺は震えた。

Aは何も覚えてない？

俺はちゃんと覚えてた、雨の中2人で傘を持って誰かを迎えに行ったこと。

2人で家出をして誰かに怒られたこと。

2人でお泊まり会をしたこと。

俺とAと誰かで毎日ご飯を食べたこと。

俺はAとAの思い出しか覚えてないのに、Aは僕のことすら覚えてないの？

涙が出たのは今でも覚えてる。

その時俺は俺も何も覚えないのと一緒なんだと思った。

辛かった。

だから俺もAと同じで何も覚えてないことにした。

忘れようと思った。

新しい自分を作ろうと思った。

なのに…数年が経ったある日、中庭で懐かしい香りを感じたんだ。

優しくて、健気で、可愛い。

一瞬でAだと分かった。

引き寄せられたみたいに。

名前を呼ぼうかと思った。

でも‘ 何も覚えてない’

その言葉が頭をよぎった。

汗だくになりながら重たそうなダンボールを運ぶA。

それでもなんとか接近したくて、触れたくて、また話したくて…

何故かバケツの水をかけたんだ。

馬鹿だよね。

でもやっぱり驚いた顔も怒った顔も何一つ変わらず、Aだった。