【男主】伝説のボカロPは歌い手に愛され執着されています【歌い手】

20話 ページ22

医者になる以外の選択肢なんて何処にも無かった。

でもずっとずっと音楽がやりたかった。
音楽に触れて居る時だけ、本当の自分でいられたから。


それでも俺はそんな夢を見ないフリして縋らないように蓋をして、親の期待に応えようと医者になるために必死に勉強した。



中学に上がってからプレッシャーとストレスで眠れなくなった。


どんなに横になっても、ぐるぐる嫌なことばかりが浮かんで悪い夢ばかり見るようになって、全く眠れなかった。

そのせいで頭が働かなくて授業も集中できなくて、成績がガクンと下がった。

両親は、
こんな成績を取るなんてありえない
貴方がこんなにバカだったなんて思っていなかった
どれもこれも、楽器にうつつをぬかしているからだ

て、息抜きだった音楽すら取り上げられた。







それでも頑張った。

どんなに否定されても親はたった二人しか居なくて、替えなんか効かなくて、今でもちゃんと愛してる。


でもある時気付いてしまった。





こんなの俺じゃなくたっていいじゃないか。

今弟や妹が生まれたとして、そちらの方が優秀だったら
俺なんか微塵の未練もなく捨てられるんだろう。



そう考えたら、ポキって折れちゃった。
それはそれは呆気なく


もうだめだ、これ以上頑張れないって思った俺は、
逃げた。



親も病院も故郷も全部捨てて
俺が俺である理由も見つけられないまま、飛び出すみたいに家を出た。




東京にある大きめの音楽専門の高校にギリギリで入った俺は
できる何もかもを音楽に捧げた。


実家を捨てたから、当たり前だけど学費は自分で稼がなくちゃいけないくて、昼は学校で勉強して夜は働いて、寝る間も惜しんで音楽に全てを注ぎ込んだ。



大変だったけど、それでも確かに幸せだった。






でもちっとも見つからなかった。

俺の、俺にしかできないことが分からなかった。


自分で作った曲を自分で歌ったりしたけど全然納得できなくて、一つもしっくりこなかった。


高校を卒業しても就職なんてできなくて、何がしたいのか何ができるのか分からないまま時だけが過ぎていった。





あぁ、きっと俺は間違えたんだ。

親もその期待も、全部を捨てて選んだこの道は間違えだったんだって、ひたすらに絶望した。






...死のうと思った。









どうせ死ぬなら、何か一つくらい形のあるものを残して死にたかった。

俺が生きた証が欲しかったんだと思う。

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