魔 性 と 恋 傀 儡 【 雪男 】

アイビーグリーン [ 💚 ] / Haruno ページ17

.









外は雨が降っていると、気づいたその時に
いつも物静かなスマホが着信を知らせて震えた。










もしもし、と出れば
「………、私を許してください」と土砂降りになった雨音と共に蚊の鳴くような細い声。








キーケースを鷲掴んでなりふり構わず家を飛び出した。








車に乗ると最寄りの公園まで飛ばす。
そこに彼女がいるという現実に胸のうちは複雑だった。










「……なんで、」










……苦悩、そして淡い期待。


あの日からどんなに苦しみ抜いたか。


同時にどんなに再会を願っていたか。







いつもより長く長く感じる赤信号を振り払って
街灯すらうす暗く灯る公園にたどり着いて辺りを見回した。










「…っもしもし？ねえ、どこ？っ着いた……」











電話口で呟きながら車のライトの先を見遣ると
そこに項垂れる人影が１つ。


慌てて後部座席の傘を掴み取り、肌を刺す雨の中を駆け出した。






ずぶ濡れになった彼女は俺がその面影を追い続けた人に
違いない。







「A、」と名前を呼び、肩を揺らせば
彼女の頬はあたりまえに濡れていた。

それは、雨なのか、………涙だったのか。










「…………せん、せい」

「…………ねえ、？……何で、また俺に……」

「…………やっぱり、私、…先生……」











ああ、これは夢じゃないのだろうか。




言葉さえ遮って抱きしめた腕の中に
離したくなかった体温がまた蘇った。









土砂降りに濡れた２つの身体はこの間まで愛し合っていた。









とても大切な愛だった。

特別で繊細で俺は何に替えても離したくはなかった。










きっとそんな風に神秘化しすぎてしまったせいなのかな。










「……うん、もう、…もう、何も言わなくて良い。

………また俺のところへ戻って、……おいで………？」











愛し抜くことさえできずに
愛しい存在は1度俺の手からすり抜けてしまった。






一縷の望みさえなかった、
だけど必死で細い細い糸を手繰り寄せて手に入れた愛だった。

……なのに。











「Aがまだ俺を必要としてくれている。

…ただそれだけでもう、十分だよ…………」










雨にさらされて冷え切った細い腕は
俺の背中に回ると、強く、強く抱きしめ返してくれた。






大丈夫

きっと今度こそ上手くいく。






君が1度手放そうとしたって
俺のこの気持ちは……、まだここに在るのだから。







.

_→←_

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す