天涯の巫女と付喪神様 二

38話 領域 ページ48

物吉様を探す為
私たちは動く
でも、何処にいるんだろう

闇雲にも探しても
見つからないだろうな
大包平さんがそう言う

昨日、聞いた桔梗さんの声を
思い出す事にした

―ここは奴が創り出した紛い物の世界一

紛い物‥偽物、似せたもの‥









『あの、物吉様が来た時って
ここはどうなんだったんですか？』

「どうなんだったって‥
既にもう、手遅れ状態ってだったかな」

『薬研、一期さん
思い出したくないと思いますけど
その時はもう
ご兄弟って、その‥』

「いえ、その時にはもう弟達は‥」

「物吉が来た時は
俺っちと一兄だけだった」

『‥‥‥‥』

「桔梗、何か思うとこがあるのか？」









国広さんが聞いてくる

私は、自分が隠された世界を
思い出した
今思えば、おかしな話だ

だって、私が隠された世界には
《不幸》が無かった
だとしたら、あの世界は
物吉様が創り出した《幸福》だけの世界
まさに彼の理想郷

そうなら、あの世界も通る

それにあの時、物吉様は
あの空間に《溶けるように消えた》

もしかすると
この本丸にはいないのかな‥？
あの世界が
物吉様の創り出した《世界》なら
こっちの本丸へは戻って来ず
あちらで幸福を噛み締めてるのかも知れない

私の推測が正しいなら
彼は《幸せを感じたい》のだ

‥もう一度、彼の世界へ行かないと








『‥私、もう一度
物吉様の領域へ行きます』

「はぁ！？
君は何言ってる！？
さっぱり意味がわからんぞ！」

「桔梗、それは
聞けない了見だ、行かせない」

「桔梗、危険だよ
また帰って来れなくなる
それは僕だって許さないよ」

『でも、行かなくちゃいけないのです

物吉様はご自分の領域に
留まってる
あそこにいるんです！

私、もう一度行きます』

「待て待て、俺たちに
説明無しで行くな

俺達にも分かるように話してくれ」

「そうだぞ、桔梗
俺たちの心配を他所に
また、行くのか？」









鶴丸さんと膝丸さんの制止
それもそうだろう
次、ちゃんと帰って来れる保証は無い
あの時は
桔梗さんの声に導かれ
こうして帰ってこれた
だけど、次
あの領域に入って、帰って来れなかったら？

私だって怖い‥
でも、あの世界には
ちゃんと物吉様がいる

39話→←37話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す