“トキ”が終わるその時まで_k-chan ページ33
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死ネタ入ります
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ピッピッ
彼女の鼓動を知らせる音が無機質に響き渡る。
「…こうちゃん」
福良さんが俺の隣りに静かに立つ。
ガラス越しに見える彼女の姿はとても苦しそうだった。
「…大丈夫です」
俺は思わず薬指にはめている指輪をゆっくりと撫でた。
ガラス越しに見える彼女のそれにも同じものがはめられていて、それが彼女と俺を繋いでいるとさえ感じてしまった。
「本音は、大丈夫なんかじゃないくせにさ」
福良さんの言葉は最もだったけど、今の俺は“大丈夫”とでも言っておかないと、苦しくて倒れてしまいそうだった。
彼女の“トキ”は本当に短かった。
僅か20年というトキに、もう終わりを迎えようとしている。
「…なんだか、難しいですね。」
「…何が?」
ある日突然、彼女の身体に病魔が現れて。
それが彼女の体を蝕み続けた。
そのせいで、彼女のトキは終わりを迎えてしまうのだから。
「いや…人の命って難しいなぁと」
何万人に1人とか、何十万人に1人とか。
そんな低確率な病気を引き当てたのが、なぜ彼女だったのだろうか。
そんな考えても意味の無い事に頭を働かせてしまう。
「何それ、すっごい哲学」
福良さんのことばに思わず笑みを浮かべた。
その時、彼女の脈を知らせる音が少しずつゆっくりになっていく。
もうすぐなんだなって思ってしまった。
自分の意思で動けなくなってしまう前に、彼女から送られた手紙をぎゅっと握りしめる。
「…本当に大丈夫?」
福良さんの心配そうな声が聞こえたけど、俺にはそれに、返答する気力なんてなかった。
ピッ…ピッ……ピッ………ピ───────
トキの終わりを知らせる音も、とてつもなく無機質で。
「…っ…」
福良さんがそっと、俺の頭を撫でた。
下を向いたり、上を向いたり、唇を噛み締めたりして、それを堪えようと必死だった。
でも、俺の頬を伝って、下に落ちていくそれは、床に水玉模様を描いていく。
───────
トキが終わるその時まで、私はこうちゃんが大好きだよ
───────
トキが終わるその時まで
俺もAを、愛し続ける。
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