たとえ話をしようか_tmr ページ29
.
「A、たとえ話をしてもいい?」
「ん、いいよ。正資の話聞くの好きなんだよね」
そう言って笑みを浮かべたAは彼女の目の前にあったホットコーヒーに口をつけた。
「へぇ…そうなんだ。なんで?」
「次から次に新しくて面白い話をしてくれるじゃん」
カチャリと音を立てながら置かれたコーヒーを俺が見つめていると、彼女は“で、今日はどんな話をしてくれるの?”と頬杖を着きながら呟く。
「今日は特別面白い話じゃないよ」
俺も緊張が理由か、目の前にあったコーヒーに手をつけた。
味なんてわからなかったけど、それでも冷たいことだけは認識できた。
「そう言いながら正資の話は面白いよね」
目を輝かせる彼女に対して、一つ息を吐く。
「捉え方によっては面白いかもしれないね」
俺らしくなく、前置きとして、こんな言葉を放った。
「Aがいつも俺のくだらない話を聞いてくれるところとか」
いつもの調子と違ったからか、彼女は少しだけ目を見開く。
「俺との約束を最優先にしてくれているところとか」
目を見開いていた彼女の頬が徐々に紅く染まっていく。
…あぁもう、そんな期待させるような反応をしないでくれ。
「たとえば俺が、そんなAのことを好きになってたって言ったらどうする?」
彼女の反応を見れずに、ただひたすら、目の前にあったアイスコーヒーを見つめる。
結露しているそれは、コップの縁をつたって下に落ちていく。
「ねぇ、正資」
不意に彼女から名前を呼ばれて、そちらを見てしまった。
ニコリ、そう音がつきそうな笑みを浮かべながら彼女は俺にこう返した。
「たとえば私も、正資のことが好きだっていったらどうする?」
彼女の笑みは、幸せそうで。
幼い頃からの付き合いの俺にはすぐにわかった。
「じゃあ、たとえ話をしようか」
彼女の笑みが、より一層深くなる。
「いいよ。正資の話を聞かせて」
彼女の微笑みに、思わず俺も笑みを浮かべてしまう。
「…君が好きだ」
報われない恋に終止符を_fkr→←瞼を閉じればそこに_ymgm
452人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ