不純な動機だと知ったら_sg ページ27
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「Aさん、これ、お伺いしても宜しいでしょうか」
「ん、いいよ?て言うか志賀くん堅いなぁ、もっと気楽に接していいのに」
Aさんはそう言ってからクスリと笑う。
「…先輩、ですし」
勿論それだけではない。
むしろ先輩であろうと自分はこんな堅い敬語を使うタイプではない。
1番の理由は想い人であるから。
好きな人に話しかけるという時点で緊張するのに、加えて気楽になんて絶対に出来ない。
「んー、そっか。拓司達には割と気楽だった気がしたから。あ、もしかして私の事苦手?」
パソコンに文字を打ち込みながらそういった彼女は苦笑いを浮かべた。
「…そっ、そんなわけないじゃないですか…!」
“好きな人に話しかけるから、緊張しちゃって”
喉まで出てきたその言葉を懸命に飲み込んだ。
「あはは、冗談だよ。苦手な人に質問とかするタイプじゃなさそうだしね。あと少しだから待ってもらっても?」
Aさんの言葉に頷いて、オフィスのソファーに座らせてもらった。
僕の思いを知っている須貝さんや伊沢さん、河村さんに肘でつつかれたり、頭を撫でられたり、ニヤニヤと見られたりしていたが、そんなことに気を配る余裕なんてなかった。
「はい、お待たせ。どこ?」
自分の用事が終わったのか、僕の隣に座りながら彼女は首を傾げた。
距離が思いの外近くて、後ずさりしそうになるのをギリギリで堪える。
彼女からふわりと香る柑橘系の香りに、胸を高鳴らせながら、彼女に聞きたいそれを指した。
「あー、これね、これは確か…」
“勉強熱心で志賀くんは偉いね”
この前Aさんから言われたこの言葉。
質問している間は、Aさん、僕のことしか見ないから。
そんな子供みたいな動機だと知ったら、あなたは僕のことを軽蔑しますか?
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