届かぬ先に告げる想い_ymmt ページ24
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『山本さん、山本さん。今日は何の日ですか?』
「…なんだろう、キリスト生誕祭ですか?」
『おぉ!流石ですね!!』
電話越しに、Aさんの柔らかい声が聞こえる。
機会を通してもこんなに柔らかいってことは生で聞くともっとなんだろうな、なんて思いながらその電話を握った。
「会いたいですよ」
『…私もです』
彼女は高校時代、陸上部のマネージャーとして働いていた僕の一つ上の先輩だ。
もともと敬語を使うキャラで、彼女がため口で話しているところを見たことがない。
それに部活中は割ときつめな性格だったし、大学に入って彼女に再会するまで、彼女に恋心を抱いたことなんてなかった。
『こっちは雪が降っていますよ』
「ホワイトクリスマスですか、海外は華やかさが違いますね」
彼女のことだ。
きっと今、自分が暮らす留学先のマンションの部屋で、窓から空を見上げているのだろう。
『同じ空の下にいるはずなのに、ずいぶんと遠く感じてしまいます』
「空って広いですよね」
僕も思わず空を見上げる。
雲一つない真っ青な空で、こんなクリスマスもありかと考えてしまった。
『ねぇ、山本さん』
「どうしました?」
彼女は一息ついてから、僕に大きな爆弾を落としていく
僕の返事を聞く間もなく、彼女は電話を切った。
「言い逃げはずるいですよ、Aさん」
空に言っても、彼女には届くはずないのに。
彼女と唯一つながれている空に向かってつぶやいた。
「僕も好きです」
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