My Precious 2【TH】

68 JK ページ18

「走って！」



勢い良く手を引かれて、そのまま一緒に走り出す。

土砂降りで被っていたフードもビシャビシャになって、鬱陶しくて空いている方の手でフードを下ろした。


最近は車移動ばかりだったから、こんなになってコンクリートを走るのはいつぶりだったろうか。


走り続けて数分、着いたのはこじんまりしたアパート。もしかして、ここ、家？キョロキョロと辺りを見回すと早く、と促された。流石に俺も、別れろって言ってるにしてもヒョンの彼女の家に上がるのは躊躇するんだけど。


玄関で棒立ちの俺に大きめのタオルを投げつけて、それをキャッチした俺に、携帯の翻訳を見せる彼女。


【雨が止んだら帰ってください】


雨で濡れた髪をタオルで絞る姿を見て、また無性にイライラした。投げられたタオルは紛れもなく彼女の優しさで、頭ごなしに自分の存在を否定した俺を助けてくれる優しい子なのかもしれないと思うと、自分にも彼女にも複雑な気持ちになる。


突き放すんだか、助けるんだか、どっちかにしろよ。


『お前、こんな簡単に誰でも家にあげるの？』


濡れたままの彼女を壁に追いやって、むしゃくしゃしたままにそう言った。勿論韓国語は通じていなくて、彼女は分からない、とでも言うように眉を寄せる。


何その顔。分かってんの？俺、アイドルだよ。世界的にも結構人気で、俺が存在するだけで幸せだって言ってくるファンも沢山いる。俺にこんなに近寄られたら、立ってられない女の子が世界中にいることを自分でも知っているからこそ、そんなリアクションに戸惑った。

ここ最近はずっと忙しくて。ヒョン達と一緒に、ずっとずっと防弾少年団のジョングクとして生きてきた。休みの日も、考えることはコンサートや新しいアルバムのこと。ずっとアイドルでいることを辛いと思ったことは無いし、むしろ楽しかった。


だからこそ逆に、俺には年相応の、1997年生まれの男としての振る舞いがよく分からない。


俺に対して黄色い声をあげたりしないテヒョンイヒョンの彼女に、かっこいいアイドルの俺のメッキをはがされたような感覚になった。どんどん心が、イライラよりも恥ずかしいという気持ちに占拠されていく。



「……ジョングクさん」


彼女に名前を呼ばれて、ふと我に返る。


改めて思うと、……なに、壁ドンなんかしちゃってんの、俺。でもこの体勢からのかっこいい退き方も分かんない。


…やばい、めっちゃ助けて欲しい。

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