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10月半ば、私はアイドルグループを卒業した。
5年前に初日を迎えた劇場で
アイドルとしての千秋楽を迎えた。
グループのメンバーたちに泣かれ
ファンにも泣かれ、私も泣いた
アイドルとして100点を取れたとは思わないが、
100%全力でやりきったと思える。
いい事ばかりではなかったけど
逃げ出さずにやりきれてよかった。
この5年間を誇りに思う。
グループのメンバーとの打ち上げが終わり
タクシーでマンションの前まで付くと、
エントランスでマサイに出迎えられる。
「おそくなってごめんね。寒くない?」
「いや、大丈夫。酔ってる?」
「乾杯の一杯飲んだだけ」
少し残念そうな顔をしてるマサイと
エレベーターに乗り込み、私の部屋に向かう。
「…なんで手繋いで歩くんだ?」
「足元おぼつかなくて怖いから?」
「酔ってないんだろ?」
「…酔ってるのかも」
部屋の前に付くと、鍵を取り出すために
繋いだままだったマサイの手を離す。
「シャワー浴びてくるから先にくつろいでて」
いつもの場所にマサイが腰掛けたのを確認し、
脱衣所に入る。
お酒のせいか、卒業した事で歯止めが効かないのか
少し大胆になってしまった自分が恥ずかしい。
自分の中にある熱を冷ますようにシャワーを済ませ
部屋着に着替える。
「おまたせー。マサイなんか飲む?」
「あー。お茶とかで」
目が合うとすぐに逸らされる。
さっきので少し意識させてしまったかもしれない。
カップにお茶を注ぎ、マサイの右隣に腰掛ける。
「卒業おめでとう」
「ありがと。やっとコンビとして本格的に動けるね?」
「まぁ本格的に動くのは明日からで」
「そだね。…それで今日はなんの話があるの?」
隣にいるマサイの方に向き座り直し、話を促す。
マサイも私の方を向く。
「…俺もいつか、Aに告白しようと思ってる。
相談に乗ってくれるか?」
しっかり目を見つめ真剣な表情で話すマサイを
わたしも負けずに見つめ返し、頷く。
ふっとマサイが笑い、わたしの頭を撫でる。
「ありがとな」
「…マサイ。左手貸して?」
ん?と出された手をわたしの右手で掴む。
「今回は、嫌なら避けてね?」
右手でマサイを引き寄せ、左手を首に回す。
そのまま唇と唇を合わせ、委ねるように目を閉じた。
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作者名:にゃんこすき | 作成日時:2019年5月16日 17時