ヒモの彼氏とヒモノの私

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プロジェクトが始動してすぐ、
マーケティング部門の仲介で報道関係者との打ち合わせがセッティングされた。
今後は直でやりとりをしなくちゃいけないらしいけど、
今までそんな会社と仕事したことなんてないからどうしても気が張ってしまう。



「…商品開発部の藤原と申します」



何回やってもどこかぎこちない名刺交換を済ませ、受け取ったそれに目線を落とす。
田中…田中何さんって読むんだろう。



「ああ、下の名前ですか？それで”じゅり”って読ませるんです」

「あっすみません…珍しいお名前だと思いまして」

「田中なんてどこにでもいるんで樹でいいですよ、まぎらわしいですし」



さすがにそんな呼び方はできないけど、そうやって距離を縮めてくれる田中さんにだいぶ救われた。
よかった、何とかやっていけそう。



.



打ち合わせはだんだん小規模になっていき、最近では田中さんと2人ですることのほうが多いけど、
その度に薄々勘づいていたことがある。



「藤原さん、次いつにします？」

「そうですね…来週のご予定は？」

「来週ですか、アフター5はいつでも大丈夫ですよ」

「プライベートではなく仕事のご予定を」

「つれないっすね、水曜以外はいつでも大丈夫てす」

「…でしたら金曜にしましょうか、見たいテレビもないですし」

「私情挟まってますよ？」



他に誰もいないのをいいことに、冗談まじりにそんな会話ができるくらいには距離が縮まった。
私たぶん、田中さんと相当気が合うんだと思う。



「じゃあこれは真面目な話ですけど…金曜打ち合わせのあと飲みに行きません？」



またそんな、と言おうとして田中さんの顔を見ると、どうもいつもの冗談ではなさそうだった。



「俺マジで藤原さんと話合うなと思ってるんですけど…どうすか？」

「…それは、私も思ってます」

「じゃ、決まり。俺店探しときますよ。気使うような店は選ばないんで任しといてください」

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