思い出した ページ29
荒いテレビの映像に痛々しい身体のお兄ちゃんが映っていた。
慌ててテレビに駆け寄る。
「突然すみません。僕は轟 燈矢。No.1ヒーローエンデヴァーの息子です。」
「燈矢お兄ちゃ、」
絶句した。
映像の中に"荼毘"はいなかった。
ただ悲しそうに淡々と話すその姿は、轟燈矢の顔だった。
ずっとずっと狂気に身を委ね、敵として振る舞っている一瞬だけ正気に戻った瞬間。
お兄ちゃんはまさにその瞬間にいる、そう感じた。
惜しげもなく晒している肌は、まるで二色のパッチワークのようなつぎはぎだらけで私の左耳のものと同じ金具がかろうじてその肌をつなぎ止めていた。
悲痛さを醸し出す蒼い目が正面を向く。その視線は大衆に向けられたものなのに何故か私一人を捉えて離さない。
耳の奥の奥、脳の真ん中、いろんな所から泣き声が聞こえる。
あれは私？いや、あんなに声は低くない。
幼い子が大声をあげて泣いていたのが次第に低く小さな嗚咽へと変わっていく。
「待って、やめて……」
誰がが私の名前を呼んだような気がするが、それもとてもとても遠くに聞こえる。
耳を塞いでも泣き声は小さくならない。
まるで頭の中に録音テープでも入っているかのように。
「…ん、な、……くん、僕…ど、らいいのかな？ぼ、く…の生きていい場所ってどこ？」
自分の呼吸の音さえ聞こえなくなって、ラジオの周波数が合うように突然、ノイズまみれの記憶がクリアになる。
ああ。思い出した。
泣いているのは燈矢お兄ちゃんだ。
『燈矢兄、大丈夫だよ。』
『つらい、つらい………』
月明かりだけがぼんやりと物の縁を浮き上がらせる部屋の中、夏兄の目の前で泣き崩れる燈矢お兄ちゃんがいる。
私は今まであんなお兄ちゃんを見たことがなかった。
いつも優しくて強いお兄ちゃんはどこにもいなかった。
『Aにこんな姿見せたくない…
お父さんは俺を見てくれない。』
『そんな！燈矢兄は強いじゃん！！』
『夏くん、俺はヒーローになるんだ。なのに……なんで焦凍なんだっ！！』
兄もおかしくなっていたんだと思う。
泣きすぎて腫れた目。血走った表情。
毎夜毎夜お兄ちゃんは恨みつらみを呪いのように唱えていた。
まだ舌足らずな私はそれを、ぼんやりと眺めているしかなかった。
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くじら(プロフ) - めっちゃ好こです！更新頑張ってください！ (4月5日 8時) (
レス) @page30 id: 85541f6d4c (このIDを非表示/違反報告)
爪楊枝 - 読んでいて、すごく楽しいです！！ (3月29日 8時) (レス) @page30 id: ee4a2d718e (このIDを非表示/違反報告)
餅つき団子(プロフ) - アップルパイさん» ありがとうございます！感情移入して読んでくださりとても嬉しいです！亀更新ですがこれからもよろしくお願いします。 (2月17日 0時) (レス) id: 2a377f2d71 (このIDを非表示/違反報告)
餅つき団子(プロフ) - 名無し47183号さん» ありがとうございます！亀更新で本当に申し訳ありません…！これからも応援していただけると幸いです！ (2月17日 0時) (レス) id: 2a377f2d71 (このIDを非表示/違反報告)
餅つき団子(プロフ) - 錫也さん» ありがとうございます！荼毘くんと逃避行していたら今頃…… ご愛読ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。 (2月17日 0時) (レス) id: 2a377f2d71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：餅つき団子 | 作成日時：2023年3月7日 17時
