鈍感 ページ21
「俺、ホントは全然強くないんだ。」
内緒にしてね、と優しく口止めされて仕舞えば、大人しく頷くしかない。
「……心操くんは、優しくて強いよ。」
越えられない高い壁があると言っていたけれど、今までだって壁を乗り越えてきたはずだ。
壁を乗り越えたから雄英に合格したし、編入だってできた。
諦めないで夢への一歩を掴み取った人間を、誰が弱いと笑うだろう。
彼は、父親が最高の環境を用意して覇道を歩んでいる兄とは違う、自分の道は自分で切り拓いていく開拓者なのだから。
「わ、私にできること何かない？」
なんだって良いから、この人の力になりたい。そう思った。
すると心操くんは、仔猫のように目をまあるくした後、穏やかに笑って恥ずかしそうに首をさすった。
「編入してもさ、これからもたまには連絡してよ。」
「えっ、そんなことでいいの？」
呆気に取られていると、心操くんはムッとして「だってA、業務連絡みたいなメッセージ送ってくるだろ。フツーに……声、とか聞きたいし……」と言った。
「そうなの？まあ、それもそっか。ヒーロー科って忙しそうだし……」
お昼に「寂しい？」と聞かれたときよりも、じわじわと実感が湧いてくる。
言葉に詰まる私を見て心操くんも言葉に詰まったように辿々しく話し始める。
「……あん時は友達って言ったけどさ、友達じゃなくてもそばに居たいって思ってるよ。」
「どういうこと…？」
「分かってるくせに。」
拗ねたように口を尖らせた顔はすぐにいつもの表情に戻った。
「……とにかく、Aは俺や維崎とか誰かの近くにいて。最近何かと物騒だから。」
「わ、わかった。」
「しんそー！轟さーん！洗い物終わったー？映画はじまるよー！」
「今行くー！」
談話室から聞こえた声に心操くんは返事をして「行こう」と私を促す。
分かってるくせに。
その言葉の真意に気づかないくらいにはまだ鈍感でいようと思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4230人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無し65741号(プロフ) - 更新待ってました！！ありがとうございます！ (8時間前) (
レス) id: 9c5ca5a812 (このIDを非表示/違反報告)
くじら(プロフ) - めっちゃ好こです！更新頑張ってください！ (4月5日 8時) (レス) @page30 id: 85541f6d4c (このIDを非表示/違反報告)
爪楊枝 - 読んでいて、すごく楽しいです！！ (3月29日 8時) (レス) @page30 id: ee4a2d718e (このIDを非表示/違反報告)
餅つき団子(プロフ) - アップルパイさん» ありがとうございます！感情移入して読んでくださりとても嬉しいです！亀更新ですがこれからもよろしくお願いします。 (2月17日 0時) (レス) id: 2a377f2d71 (このIDを非表示/違反報告)
餅つき団子(プロフ) - 名無し47183号さん» ありがとうございます！亀更新で本当に申し訳ありません…！これからも応援していただけると幸いです！ (2月17日 0時) (レス) id: 2a377f2d71 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：餅つき団子 | 作成日時：2023年3月7日 17時
