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『鴻の湯』は、宿から歩いてすぐのところにあった。

大ぶりな岩と、日本らしい植木に囲まれた素朴な露天風呂で、大野の他には、地元の人間らしい若い男たちが1組だけ居た。



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熱い湯はどちらかと言えば苦手だった。

ただ湯気が良かった。

肩までじっと浸かっていたら、風に踊らされた湯気が頬に当たるのが、なんともホッとする。


「熱いなー。鴻の湯熱いねんなあ」

「でもこれがええねんな」

「中毒性あるよな」

「分かる。戻られへん。ここまで来たら」

「分かる分かる、この熱さが俺の中の風呂になってもうてる」

「さとの湯とか水風呂やもんな」

「それは言い過ぎやろ」


様々な種類の笑い声が、湯けむりと混ざって響いた。

離れたところに浸かっている若い男の集団は、4,5人で成っていた。


みんな一様に、よく日焼けし、筋肉の盛り上がった肩をしていた。部活動か何かの集団だろうか、と大野は思った。



「ちょ、怖い話していい?」

「え、なに?」

「マジで怖いで。ほんまに怖い。いい?」

「は?なになに?怖いねんけど(笑)え、なに?」

「俺カナちゃんと付き合ってんねん」


「「「ウオオオオオオオ!!」」」


「怖い!ありえへん!本怖やん!」



湯の温度が高いだとか、誰の彼女が可愛いだとか、引退が近いだとか(どうやらどこかの大学のラクロス部らしかった)、大阪に出てもナンパに失敗しただとか

母親がおせっかいだとか、父親の加齢臭がきついだとか、SNSをやめてみただとか

好きなおにぎりの具から、休日の睡眠時間まで


彼らは、おそらく世界中の"他愛もない"に分類される話を、1時間ほどかけて網羅した。

それの節々で、大声を上げて笑ったり(大して面白い話でなくても、彼らはたいへん面白そうに笑った)、神妙に顔を寄せ合ったりしていた。


「ええバイトないかなあ」

「え、居酒屋あかんの?」

「しんどいやん、平日はええけど金晩土晩がさあ」

「ヒマより忙しいほうが良うない?」

「わかる、俺も動いてるほうがいい」

「いや、レベチやねん。売上悪いから忙しい日も人員カツカツで回すねん」

「あー…」

「なるほどな」


若い男たちは、身体が温まったら岩の上に座って風を浴び、寒くなったらまた浸かる、というふうに、器用に体温を調整していたのだが


大野は、この男たちのカラカラとテンポよく回る会話を聴くのに夢中になってしまって、ずっと肩まで浸かったままで居た。




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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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