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二宮は、仕事先と連絡を取っていたパソコンをパタンと閉じて、耳に当てていたスマホを持ち直した。



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電話の向こう側では、笑いを堪えるようで、嗚咽にも聞こえる息漏れが続いていた。

しゅん、と鼻をすする音が聞こえるので、泣いているのかも知れなかった。



「…大丈夫だよ、だあれも急いでないよー……」



言った後で、ふ、と息をついて窓の外を見る。

自宅マンションの小さな窓からは、ぼんやりと雲に隠された月しか見えなかった。


細い雨が降っていた。



「宿の人さ、優しそうだったじゃんか。…虫も食わないような顔してたよ?(笑)もっと甘えれば?」



大野が笑っているにしても、泣いているにしても、二宮にとっては喜ばしいことだった。


いつからか、感情をすっぽりと引き抜かれたようになっていた。

首を縦に振っているか、横に振っているか。それでしか、大野の意志を確認できなかった。


面倒なことに口を尖らせるのも、照れて下唇を噛んだり額を触ったりするのも

様々なことに心を動かす大野の、分かりやすい動作だったのに、


すっかりそれが、失われていた。



「たぶんちょっとくらいワガママ言っても許してくれるんじゃない?知らないけど」



彼がありったけの刃物を集めて、途方にくれていた朝に流した涙も

無表情の上に滑った、ただの水に過ぎなかった。



「……てゆうか俺の土産忘れないでね?但馬牛」



どんな理由であれ、大野が笑えて泣けているのなら、良かった。

本当にどんな理由でも良かった。理由が分からなくても良かった。



「酒のアテにもしたいから2個かなあ……あ、大野さんもこうゆうの好きじゃない?一緒に食べようよ」



時計を見たら、針は午前零時ぴったりを指していた。

二宮はあくびをかみ殺して、凝ったこめかみをぐりぐりと押した。



「湯めぐり行ったらさあ…どこがどう良いとか、あとで教えてよね……俺も今度……行きたいし…」



ブオオ、と、下の道路で車が通る音が聞こえる。

もっとこの場所が静かで穏やかであれば、一瞬で眠りに落ちそうだった。


都会で良かった、と思って、苦笑した。



「………ふふ……迎え行って、さ……肌とかつるつるだったら……まじ笑う……」



二宮は、電話の向こうで、すうすうと規則的な寝息が聞こえ始めてからも、しばらくは

他愛もないことを話し続けていた。



夢の中まで届くように。

そこでなら、大野は返事をできるかもしれないと、そう思って。




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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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