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細くて柔らかい雨が、傘の横から吹き付けてくる。

まばたきの拍子に、一滴、目に入って痛かった。大野は泣きたい気持ちになった。




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俯いてしまった大野の、濡れた前髪を、櫻井はなんとなくで掻き上げた。表情が見たかったのである。

急に触れられた大野は、ひくりと身を竦めて、怯えた顔を見せる。


櫻井は、その憂いの瞳よりも、きちんと着られなかったために襟がずれている浴衣が気になった。

焦るように風呂屋を出たせいで、乱暴に巻かれている帯も。



【少し お浴衣を直させて頂いても宜しいでしょうか】



そのメモを見せると大野は、いい、いい、とぶんぶん頭を振った。

瞳は不安の色を深くして、警戒の重さの分だけ、浴衣の前をぎゅっと合わせる手に力が入る。



取り残されたウサギ、濡れた子猫、捨てられた子犬、あるいは迷子になった子どもなどは、おおよそこのような表情を見せるだろうと、櫻井は思った。



罪のない弱さだった。

誰かが守ってやらねばならない状態に、この人はなっているのだ。一時的に。



その原因について、櫻井は深く掘り下げたいとも思わなかった。

重要なのは隠された事実ではない。隠された本音である。



【人が、嫌いですか】



そう書いた。

櫻井の肩が、大野と同じくらい濡れてきていた。


ペンを渡すと、すこしだけ指先を震わせながら、大野は応えようとする。

ペン先が、白紙の上をゆらゆらと動いて、言葉を探していた。


時間がかかることは、櫻井にとってとくに問題ではなかったし、肩が濡れてゆくのも、ちっとも気にならなかった。





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【人は好き】





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軽自動車が3台、間をあけて通り過ぎるほどの時間をかけて、大野はそれを書いた。


さらに、軽トラックと、乗用車が連続で通り過ぎるほどの時間をかけて




【人は好き でも怖い】




と、書き足した。



点数の悪いテストを、母親に見せるときのような渡しかたで

おずおずと、自信なさげに返ってきたその言葉を、櫻井は、目を細めて大切そうに撫でた。



大切なのは、事実でなくて本音だ。

大野の居る世界などは特に、本音が事実に埋もれるところだ。

事実すら、虚構に埋もれるところだ。





そして




【人は好き でも怖い】




〈でも〉の部分を、び、と二重線で消して


〈だから〉と、その上に書いた。




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【人は好き だから怖い】




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援→←橙



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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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