浴 ページ14
.
「そうなんだー…、じゃあ悪いこと言ったなあ…」
.
松本は、苦い顔をしてロッカーを閉めた。
まだ帰る気はないようで、座布団に腰を下ろして机にだらんと凭れかかる。
「離れの人…ごめんなさい……マジで…よく眠れていますように…」
ぼそぼそと見ず知らずのお客に謝罪を送るのが可笑しくて、相葉はくすりと笑った。
櫻井は、黙々と着物の紐を解いて、浴衣へと着替えている。
いつも洋服に着替えるのに、今日は和服であるのが気になった相葉は、着替え途中の櫻井の肩を、とんとんと叩いた。
ん?と眉を上げる櫻井に、「浴衣?お風呂いくの?」と聞くと、うん、と頷く。
「外湯めぐり?どこまで行くの?夜道は暗いし危ないよ、翔ちゃん」
釘を刺すようにそう言うと、相葉の口元を読めないはずがないのに、櫻井は、かくんと小首を傾げて、何を言っているのか分からない、という顔をした。
そして再び、ちゃきちゃきと浴衣の前を合わせる。
白が基調で、紺色にモダンな柄の入った、現代風の浴衣である。落ち着いた雰囲気の櫻井だからサマになっていた。
「ちょっと。おとぼけはやめてよー」
ずい、と櫻井の前に回り込んで、わざとらしいほど分かりやすく口を動かした相葉。
「よるは、あぶない」
そんな相葉の頬に、細い指を立てて、櫻井はそのまま
【もう大人だぞ】
と書いた。
「さらわれたらどうするの」
【誰も大人の男なんてさらわない】
「お湯上りでほかほかしてる翔ちゃんなんて女といっしょです」
【ちがう】
「車が来るよ、うしろから!」
【ライトで分かる!】
ぺちん、と軽く、相葉は頬を叩かれる。
そこに櫻井が文字を書いていたので、左頬だけが熱を持っていた。
「なにしてんの(笑)」
机に凭れた松本が、揉めるふたりに声を飛ばす。
着替えた櫻井と、櫻井の目の前で、変な体勢で、頬を指でかき回されている相葉の図は、松本から見て、なかなかのものだった。
そこで、荷物をまとめた櫻井が、たたっと駆け出した。
「え?翔さんもう行くの?そんな恰好でどこ行くの?」
目を丸くした松本の横を、するりと風のように通り抜け
休憩室の扉を閉める前、いちど、振り向いて
ゆ、あ、み
と口を動かした。
ふ…と艶やかに微笑んだあと、相葉に向かって、いたずらに舌の先を見せる。
「……ゆ、…湯浴み、ね…」
えっろ、と呟いた松本の頭を
相葉が、ばしんと強く、はたいた。
.
466人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
律(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時