優しさをください。19 ページ23
私を追い詰めるように、男は運転席側の窓をただひたすらに叩きまくる。ばんっ、がんっ、ばんっ、という音が辺りに響き渡って、その音を聞いて足を止めている人もいるにもかかわらず、男は、ただひたすらに私だけを見つめて、車を殴りつけている。
もしかして、このまま窓ガラスを割るつもりなんだろうか。いや、人の、しかも素手でそんなことをするのは不可能だ。できるはずがない。そうわかっているのに、体が恐怖で動かないのだ。
誰でもいい。
誰でもいいから。
――――――助けて……っ！！
男「ねぇ、Aちぁん？」
『……っ！？』
男「そんなに驚くことじゃないでしょぉ？それよりも、ねぇ、開けてよ」
『……っ！！』
とっさに、首を左右に振る。それを見た男の顔が、みるみるうちに歪められる。それを見るのも、すでに怖いのに。
再び、がんっ、と強く窓を叩かれて、体が恐怖に跳ね上がる。
私は、ふと、余計な思考が入った。
『(このままここに立てこもり続けたら、迷惑ががかるんじゃないの……？)』
あの優しい笑顔を向けてくれた彼に。あの青い瞳を持つ、彼に。
大好きな空と同じ瞳を持つ――彼に。
動揺する。
そんなことはない。彼は、そんなことは言わない。迷惑だなんて、絶対に言わない。
むしろ、よく頑張りましたねって、言ってくれるはずだ。だからここで無理に動くのは賢明ではない。車の外に飛び出すなんて、無謀なことをしてもいけない。
どうせこの傷だらけの体では、逃げることなんて不可能なのだ。
そう考えているのに。
男「Aちゃぁん！ほら、早く出てこないとこの窓叩き割るよ！？これの持ち主も迷惑がるんじゃないかなぁ！？」
『……っ！』
男「ほらほら、扉をあけて、こっちにおいでよ！ほらぁ！」
『や、…だっ…、やめて……、やめて、くださ……っ』
男「え、なに？なに？聞こえないよ、Aちゃん、ほら、もっと大きな声で聞かせてよ！」
恐怖でこれ以上大きな声は出ない。ガタガタと震える体をどうにかすることができないのに、大きな声を出せというのはもっと無理がある。歯の根が合わなくて、ガチガチと音を立てているのが自分でもわかるほどなのに。
ぬっと手が伸びてくるのが見えて、届かないとわかっているのに、体がビクつく。まるでその様子を楽しむかのように、目の前にいる男は何度も何度も、繰り返しその行動をする。
何回目かわからないその行動を男がした時、見たかった姿が、聞きたかった声が、私の視界と耳を占領した。
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妃沙(プロフ) - 明里香さん» 誤字のご指摘ありがとうございます！修正しました！ (2018年6月2日 20時) (
レス) id: 8817d67e5d (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 安室sideに誤字がありました。「毒の車」ではなく、「僕の車」です。 (2018年6月2日 19時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
妃沙(プロフ) - コメントありがとうございます！面白いと言っていただけてとても嬉しいです！更新頑張ります！！ (2018年5月27日 8時) (レス) id: 35e497a401 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 凄く面白いです！！、更新頑張ってください！応援しています！！！ (2018年5月26日 23時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：妃沙 | 作成日時：2018年5月18日 8時
