ゑ 疑われたスパイ ページ44
「答えは否、ですよ。」
「…そうですか、残念です。」
パッと意外にも呆気なく手を離した三好は、再び帽子を目深に被ってその表情を半分覆った。
くるっと背を向けて立ち去っていく三好を見送ったAは、同じようにゆっくりとした足取りで立ち去る。
がさ、
二人が密会していた場所に一つの影が出てきた。
真っ黒なタキシードは大きなペンギンを想像させるほど、体は丸く、かろうじて首から見える白い蝶ネクタイが"紳士"と言える身なりをしている。
「ふっ、掴んだぞ、コソ泥スパイめ。」
ニヤニヤと人の悪い笑みを向けた頭の禿げた小太りなこの男は、金の懐中時計を取り出した。
「おっと、もうこんな時間。
旦那様にお伝えせねば。」
コソコソとズミの如く動き回った男は、森の影に隠しておいた真っ黒なディーゼル車に乗り込み、荒っぽい運転でその場を立ち去る。
男が向かった先はイギリス風洋館、出迎えのメイドを押しのけて、男はこの館の主人が待つ書斎へと雪崩れ込んだ。
「旦那様、旦那様。」
「なんだ煩いぞ、Mr.スミダ。」
「それが旦那様、旦那様の仰った通り、あのメイドはスパイでした。」
小太りでハゲ頭の男をMr.スミダと呼んだ主人は東洋にしては珍しい彫りの深い顔をし、アイスブルーの瞳を鷹の目の如く鋭く細める。
彼の名前はマクロン・イチロウ。
生粋の日本人で、右足を患っているいるらしく、外出時は杖が離せない。
事情を聞いた彼はふむと頷く。
「スパイ、か。」
よく相手を観察しようとする色素の薄いその瞳は、地獄の業火でも溶かせない程凍っている、
何時ぞやか訪れた主人の古い友人が、冗談めかしでそう言っていた。
スミダと呼ばれたこの男は、まさにその言葉通りだと痛感した。
「間違いありません、
へへっこの私がそばにいるとも知らずに、男と密会した挙句、別の場所でまたスパイ行為をしようとしてるらしいです。
なんと小賢しい、なんと厚かましい、なんと滑稽な、
旦那様いかが致します?」
ところが熱っぽくまくし立てるスミダとは違い、主人の目の色は変わらない。
すうっと更に目つきが鋭くなっただけだ。
「英国に曰く、スパイとは"紳士"の役目だ。」
「紳士、ですか?」
「そうだ女はただのフェイク、後ろに誰かいる筈だ。」
「紳士…」
スミダの脳裏に、例の"女スパイ"と密会していた成金風味の男が浮かんだ。
だが、あの男は紳士とは程遠い。
ダメ元で尋ねるが、主人の答えもノーだった。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時