し 第十幕〈女スパイの慢心〉 ページ43
さて冬将軍が目の前まで訪れている頃。
Aこと、D機関の女スパイは稀に見ない窮地に陥っていた。
話は数日前に移る。
Aはとある資産家に、メイドとして雇われていた。
ところがこの家、根っからのイギリス贔屓。
徹底してイギリススタイルを貫くため、雇われたメイド、執事、使用人はオーダーメイドの服を常時着ることが約束されていた。
そんな肩が凝る服をどう処分しようかと思い倦ねているところに、厄介な人物が通りかかった。
それが実井、波多野、三好の三人だった。
あっという間に服の一件は他も連中にバレた上に、やんややんやの大騒ぎ。
そんな中頭のおかしい誰かが、Aに女装の指導をしてもらおうという世迷言を言ったのだ。
女装の指導聞こえはいいが要するに、ただのファッションショーだ。
当然抗議をすれば、一つゲームが提供された。
それは任地先をバレずに貫き通せたら、罰ゲームは無しと言う約束。
しかし、任地先はあっけなくバレてしまった。
高級老舗旅館を一手に占めている欧米の資産家、スペイン人の別荘に訪れば、既に彼らの一人が待機していた。
「(どれだけ暇なの？)」
そう内心で悪態をつくAの傍らで三好はふふんと笑ってみせた。
成金の扮装をしているらしく、嫌味なほどにあっている。
「これで我々の勝ちですね。」
「覚えてなさいよ、本当に。」
「まあ吠えることならいくらでもできますから、ね、負け犬さん。」
にこり、心底人を馬鹿にした態度に、一体どれだけ彼の擬態が素晴らしいか思い知らされる。
「まあ、"罰ゲーム"以外でも、要求する事ならありますよ。」
「何です？無理難題は嫌ですね。」
「ええ貴女にしてみればそうかもしれませんね。
その堅苦しい敬語、いい加減取れません？」
ふうっと煙草の煙をAに吹き付け、三好は不機嫌そうに言い放つ。
しかし要求されたことには、否と即答した。
「無理ですね、それは。」
「なら"罰ゲーム"は？」
「いっそ開き直ってやってみせますよ。」
会話は終わり、そう言いたげに立ち去ろとするAの腕を、クイっといつの間にか引き寄せていた三好。
「先ほどの返事もなしですか？」
「…」
じいっと見つめてくる黒い目、男にしては赤すぎる唇、そこらの女よりも長い睫毛。
よく作られた顔は憎たらしい程良く出来ている。
けれどその顔に向かって、Aはゆっくりと、口の両端を釣り上げた。
何故？嘲笑にしか取れないその表情は、悪魔を想像させる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 61人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (
レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます！もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです！ (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アサノ | 作成日時：2017年7月9日 14時
