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ろ 桜の樹の下で ページ3

「そうですか。
軍人の方ですからしょうがないでしょうけど…
もう少し博識でも誰も文句は言いませんよ。」

落ち着いた口調のAは、静かに囁くように言う。
背を向けているのに何故答えが分かるのか、かすかな疑問をもちながらも、つられるように佐久間も木を見上げた。


「貴女はご存知なのですか?」
「当然です。」

短く語尾を強めに声に出したAはいささか気分を害したようだ。

当然だ。
彼女はD機関員の中では珍しく、軍人を馬鹿にするのではなく、毛嫌いしている。
内心で俺を笑っているのか、想像する佐久間だが、不思議と怒鳴る気持ちにはなれなかった。
そしてAもそれ以上は何も尋ねようとはしなかった。


けれど、一つ
嘲笑うように彼女は彼に愚問を投げかけた。


「佐久間さん、
では後何度桜の花が見られるでしょうか。」

疑問の余地のない、想定できる答え。

俺は試されているのか、
ぞくりと寒気にも似た空気を感じ、払拭するように佐久間は胸を張って答える。



「…自分にはそのようなお答えはできません。」


軍人として百点満点の答え。

その答えを予期していたように、そうですかと頷いたAは、何も言わずに佐久間が向かう方向とは別に歩き始めた。
別れの挨拶を、そう口を開くかけた佐久間より、早く口を開いたのはAの方だった。

「またお会いしましょう、佐久間さん。」


皮肉と嘲りの笑みを浮かべて、佐久間が二の句を告げる前に女は駆ける様に立ち去った。



立ち去ったぬばたまの髪は艶やかに揺れ、その背は見えなくなった。

佐久間は呆然とそこに立ち尽くした。

まるで…狐にでも騙されたような、
そこに何がいたのか、
自分でも認識できない気分になる程、
ふわふわと何かに心を絡めとられ、甘美で儚い、淋しげな空気。



「(この桜の名を、教えてはくれないのか、)」


満開の桜を三度見上げ、いなくなった気配に、佐久間は一つ懇願する。
自分からあんな答えを言っておきながら、なんと身勝手な。

自嘲的にフッと笑う佐久間。
だが、どれだけ気持ちを塗りかえようとも一度残ったしこりは消えない。



「ああ、また会おう。」

被った帽子をクイっと引き下げ、カツカツと早足の佐久間。
そんな彼にまるで手を振るように桜の枝が再び靡く。

対戦とは無縁な陽気に包まれた昼の出来事だった。

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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時

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