空に光る星 2

トロント ページ39

*

(リアルタイムでソチのお話を書きたかった為、時間が無くて書ききれなかったカナダのお話を少し差し入れてみました。

　時間の流れが前後してしまっている事をお詫びします。)


*



　ボクは練習の拠点をカナダのトロントに置いた。

　慣れない環境、分からない言葉。

　こんなことなら、もっと英語を勉強しておけばよかった…

　今さらそんなことを悔やんでみても仕方ない。

　人種の差別、知り合いや友達もいない日々の生活。

　ストレスが胸の奥に充満し、いつもどこかでイライラしている自分がいた。


『ボクはスケートの為にここに来たんだ。』

　そう自分に言い聞かせても、うまく感情をコントロールできない。

　跳べないジャンプを日に50，60繰り返す。

　思い通りに動かない足。

　悔しい…

　ボクは何のためにここにいるの？

　辛い、苦しい…

　心の中に負の感情しか生まれない。

　ボクは、どうしたらいいの…？



　毎日、部屋とリンクの往復。

　心安らげるのはAとの会話だけ。


「もしもし、A…」

「羽生君、元気？そちらの生活には、もう慣れた？」

「うっ、うん！大丈夫だよ！―――頑張ってるから心配しないで。」

　ホントは全然大丈夫じゃないくせに…

　Aにウソがばれないように明るくしゃべる。

「―――ホントに？」

「ホッ、ホントだよ！それよか、こないだ行ったレストランで、隣のテーブルの団体客の分までお金、支払わせられそうになって、チョ〜ビビった！！」

「ええっ！？ホントに！？それって酷くない？」

「うん、うん！マジ、酷いよね？ビックリしたし！」

　胸の内を読まれないよう話題をすり替えた。

　Aには、心配かけちゃいけない。

　Aだって、ボクと同じに淋しい想いしてるのだから…


　それでも、心は欲してる―――

『A、逢いたいよ…』

　それでも、心は求めてる―――

『A、今すぐボクを抱きしめて…』

　ボクは、ダメになってしまいそうだよ…



*

ウジウジ→←ゴールドメダリスト

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す