第二五訓 ページ25
「愛されてたかなんて覚えて無い。愛さぬ男との間に生まれた私を、どう思っていたのかもわからない。けど、母様が私を置いていったのは事実で……確かにあった優しさも、事実なんだよ」
それが、母様の甘さゆえの、落ち度なのかもしれないけど。
改めて言葉にすると、涙が溢れそうになる。
ぐっと堪えて、手を握りしめた。
ーーーぐいっ
「…三日月？」
いつだったか怯えるほど強く抱きしめられたその手で、今度は優しく、三日月に抱きしめられる。
「名を取られるという事は、神に身を捧げるという事。…そう言ったな、主は」
「あ…や、」
「俺に、身を捧げる気はないか。……俺なら、お前を愛してやれる」
「…私は、皆が…！」
「いいではないか、今まで通り皆と共に過ごせば。…ただ、心と身体が俺のものとなるだけだ」
それは、甘い誘い。
今まで通りで暮らせるのなら。
今より愛してもらえるのなら。
「…はい、そこまで。なに口説いてんのじいさん」
「駄目だろー？あんたを愛してるのは三日月一人じゃないんだから」
ぐいっと清光と薬研に三日月と引き離される。
いつから聞いていたのか、二人は眉間に皺を寄せてなんだか複雑そうだ。
ああ、少し、寒い。
温もりがなくなるのは。
「だって……私、皆と違う」
Aの言葉に清光はため息をつく。
「違うのは、当たり前でしょ。人と神。審神者と刀剣」
「それの、なにが嫌なんだい。…たーいしょ」
薬研がしゃがみこみ、Aと同じ目線に揃う。
涙に触れられた、薬研のその手は暖かい。
なにが違うんだろう。
彼らは、見てくれなら、人と同じ。
Aと、同じ。
…でも。
「皆と違うのが、嫌。置いていかれそうになるのが、嫌」
それでも嫌なんだ、違うことが。
当たり前に違うそれが。その、差が。
「…ずっと一緒に決まってんでしょ」
清光の呆れたような声に顔を上げる。
「あんたがじいさんを選ぼうが、あんたが俺っち達刀剣と違かろうが、一緒にいるさ」
「そーそ。なにをそんなに怯えてるのかわかんないけど…主と離れるなんてやだし」
「ふふ、主よ。心配せずとも、お前は十分愛されているようだぞ」
母様には愛してもらえなかったけど。
ここには、どうやら主としてでなく。ただ、家族として。
「愛してくれて、ありがとう」
与えようとしていた愛を。
与えられた愛を。
「はは、なんか情緒不安定で、ごめんね」
幸せとは、こうあるべきと。
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黎奈(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます！！すごく面白かったです。完結お疲れ様でした！第四訓で宗三左文字が宗山左文字になっていらっしゃるのでご報告させていただきます。あと、ちょこちょこ報告に来るかもしれません… (2015年10月18日 22時) (
レス) id: 339ceb4b4b (このIDを非表示/違反報告)
華維璃(プロフ) - お疲れ様でした！とても面白かったです！小説の書き方、参考にさせて頂きます<(_ _)> (2015年9月22日 20時) (レス) id: 5dbf713d35 (このIDを非表示/違反報告)
連合(プロフ) - お疲れ様でした！ (2015年7月19日 17時) (レス) id: bbc5de6b90 (このIDを非表示/違反報告)
らい兎(プロフ) - 第三四訓の「突き出ているのは日本の大きな角。」というところもしかして日本→二本でしょうか？面白かったです。 (2015年7月13日 23時) (レス) id: 5d4b050560 (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - お疲れさまでした、面白かったです！宗近のじいちゃんが入手できないのが痛いですね。 (2015年7月10日 19時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：稜 | 作成日時：2015年4月10日 14時
