第十二訓 ページ12
「さて。そろそろ三人も馴染んできてくれたみたいだし、私も審神者としての仕事をしなければならないわけだ」
Aは掌でコロコロと賽子を転がす。
そこに描かれているのは干支の字。
「ということで早速ではあるけど、今日の夕刻、出陣してもらいたい」
ここは、いつかも集まった狭く感じる居間の中。
Aの言葉にそれぞれ思っていることは違ったが、それでも異論を唱えるものはいなかった。
「一軍任命します。
隊長には実戦経験のある一期一振。
隊員は、加州清光、小夜左文字、山姥切国広、太郎太刀、五虎退。
…異論は?」
Aの問いには誰も答えない。
肯定と受け取ったAはその足で一振の元へと向かう。
「一人でも怪我をしたら撤退しなさい。自分の力を過信しないように」
「ええ、分かりました。…命にかえても、あなたの家族をお守りします」
Aは怪訝そうにすると、ころっと一振にその賽子を預ける。
「…これは?」
「これは母の形見のようなもの。持ち主が死ぬと消滅するっていう代物でね。大事なものなんだ」
審神者としての証としてもらう、一つの証明がそれ。
この賽子がある限り、まだ母は生きていると信じられるのだ。
「何故そのようなものを…」
「…絶対に私の元に手渡しで返しに来て。…死ぬなよ、一振。
命にかえられるものなんて、あってたまるか」
「…っ」
命なんて、削るものだと思っていた。
そうしないと、何もせずに死ぬような気がして。
「どうせ君たちは死ぬことを何とも思っていないんだろうけど。
…私は自分の家族が死ぬと悲しいから」
それはどういう、と言いかけた一振の言葉を遮ると解散!と声をあげた。
パラパラと皆、それぞれの部屋へと戻る。
「――主…私も、あなたの家族になれたのですか」
「勿論。ここに来た時点で、皆私の家族だよ」
Aは在り来たりのような、そんな言葉を投げかける。
一振がそれに何か言い返そうとして、次のAの言葉に目を見開いた。
「ああ、そういえば五虎退と薬研と一緒に庭の手入れを手伝ってくれてるみたいだね。
―――ありがとう。
素敵な兄だよ、君は。
これからも皆を頼むよ、お兄ちゃん」
仕事仕事、と部屋を出たAの後ろ姿をぼんやりと見ながら、一振は賽子を握る。
「…ああ、そうか。これが……、」
そして愛おしそうに目を細めると立ち上がった。
「死なないように、頑張るよ。可愛い妹のためにね」
その言葉は誰に届いたわけでもないけれど。
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黎奈(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます!!すごく面白かったです。完結お疲れ様でした!第四訓で宗三左文字が宗山左文字になっていらっしゃるのでご報告させていただきます。あと、ちょこちょこ報告に来るかもしれません… (2015年10月18日 22時) (レス) id: 339ceb4b4b (このIDを非表示/違反報告)
華維璃(プロフ) - お疲れ様でした!とても面白かったです!小説の書き方、参考にさせて頂きます<(_ _)> (2015年9月22日 20時) (レス) id: 5dbf713d35 (このIDを非表示/違反報告)
連合(プロフ) - お疲れ様でした! (2015年7月19日 17時) (レス) id: bbc5de6b90 (このIDを非表示/違反報告)
らい兎(プロフ) - 第三四訓の「突き出ているのは日本の大きな角。」というところもしかして日本→二本でしょうか?面白かったです。 (2015年7月13日 23時) (レス) id: 5d4b050560 (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - お疲れさまでした、面白かったです!宗近のじいちゃんが入手できないのが痛いですね。 (2015年7月10日 19時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:稜 | 作成日時:2015年4月10日 14時