SPARC

混乱(k) ページ15

藤ヶ谷は
何故か満足そうな
微笑の唇をかたどっていて

俺の輪郭を
その指でたどった

ほんの一瞬の事……
だったけど

俺には
やけに長く感じて……

……この指の感触を知っている…………
と思った……


我に返ると
藤ヶ谷の後ろで
横尾さんが苦笑いしてるのに
気付いた…

「……ケ……ケガしてないなら良かった！あ…派手に割れたなぁ！」

慌てて
取り繕うように
破片を拾う……


わずかに指が震えるのは

藤ヶ谷の仕草の
意図が理解できなかったから

いや……

期待する自分と
自虐する自分と
否が応でも
浮き彫りになる

間違いなく
自分は

藤ヶ谷の事が

好きだ……という
確信が

恥ずかしくて
怖くなったから……

そして昨日……
眠る俺に
キスしたのは
夢現の幻なんかじゃなく

藤ヶ谷その人だと
確信してしまったから……


動揺は指先を狂わせ


破片が戒めるように
指を裂いた

「イ…ッ！」

【ミツ！切ったの？大丈夫？！】

駆け寄ってくるニカを
待つことなく

藤ヶ谷が俺の手を取り

赤く膨らむ滴を
口に含んだ……



楽屋が
一瞬の内に
静まり返った……


『……以外に深いな…ちょっと来な？……』

洗面台に連れていかれ
逃がさないとでも云うように
後ろからハグするみたいな格好で

傷口を丁寧に洗浄された

『大丈夫か？痛いだろ？』



傷口より

バクバクと鳴り響く心音が
シュワシュワと
せり上がる
泣きたくなるような息苦しさが


痛い…………



「…………いたい…………」


思わず
唇からこぼれた言葉は
片言のようだ……




空いている手で
服の胸のところを
ギュウッと掴んでいた……

頭の隅で……
あ……ホントだ……ニカが言ってた……
胸の辺りの服を良く握りしめてるって…………
俺……無意識にやってるんだ……



嗚呼……胸が痛くて苦しい……


無意識は無意識に

俺の瞳から
滴がこぼれ頬を流れてく……



『……そんなに痛いの？』

「……え？……」


顔をあげると

鏡に写る俺は藤ヶ谷に
後ろから抱き締められて
まるでカップルのようだ

鏡越しに
俺を見つめる藤ヶ谷の
視線の強さに
居たたまれなくなる

「ねっ。……藤ヶ谷？もう大丈夫だから離して？……ありがと。後は自分でするから」

わずかな沈黙…
水の流れる音がやけに
大きく聞こえる…


『……そう？……』

俺の肩に手を置くと
クルリと向きを変えられ

向かい合う
また頬を指がなぞる

『……涙の跡……ふふ。泣き虫だな……相変わらず……』

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