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no side
機械質な音だけがする部屋
大きな白いベットに横たわり、目を瞑り続けている女
その近くで、その女の手を握りぼんやりとしている男の姿があった
Aを救出してから2日
未だに意識のない彼女に一睡もせずに隣にいる鬱は、ただひたすら彼女の帰りを待っていた
小さな体が呼吸をしていることに少し安心しながらも、疲れきった体でずっと寄り添っている
それをみんな心配しつつも、声をかけられる人は少なくて
同じ部屋にいたしんぺい神が痺れを切らし何度目かの声掛けをする
「大先生、そろそろ寝ないとあかんで」
「……うん」
「……Aちゃんは大丈夫やから」
「…なにも、変わらへんな……」
「え?」
しんぺい神が彼を寝かせようとさせるが、頑なに動こうとはしなくて
そんな鬱に呆れながらも、彼の口から出る言葉に動きを止めた
「……また、救えんかった」
そう呟いた鬱は彼女の手を握ったまま顔を伏せる
また
そんな言葉にしんぺい神は深くため息をつき、鬱の隣に腰をかけ
まだ湯気の出る暖かい緑茶を机に置いた
「なぁ大先生、後悔したって…過去は動かせへんよ」
「Aちゃんだって、それを理解してる……大先生を責めたりしない…」
「苦しめてしまった分、辛い思いをさせてしまった分……いかにそれを埋めてあげるかが、大先生のやるべき事なんやないの」
鼻をすする音にポンポンと優しく鬱の肩を叩いたしんぺい神は
「Aちゃんが起きるまでに、その顔どうにかしとき…?」
と少し離れたデスクに向かった
小さな手が彼の手を少しだけ握り返していて
「……Aちゃん…はよ、起きて…」
ギュッと強く閉じる瞼
どうしていいか分からない感情のまま、鬱は彼女から手を離す
起きてすぐに抱き締められるような、万全の状態でいたい
救護室から出る前に机に向かっている男に向け
「起きたらすぐ呼んで」とだけ言い、鬱は出て行った
そんな彼の後ろ姿を見つめたしんぺい神は安心したように微笑み
寝ているAを視界に入れてから再び書類に目を移した
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美雨 - 小説で久しぶりに泣きました。最高の作品でした。大好きです。 (7月26日 18時) (レス) id: c21832273f (このIDを非表示/違反報告)
はーな(プロフ) - 読み終わったあと感動で胸が締め付けられました。神作に出会えてよかったです!! (2022年9月2日 19時) (レス) @page27 id: e031897919 (このIDを非表示/違反報告)
海 - 泣けた。やばいですよもう。 (2022年8月14日 21時) (レス) @page27 id: 5511dd41f6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい - 感動してめちゃめちゃ泣いた.....しかもこの小説私の誕生日に作られてる、運命かな......... (2022年7月19日 21時) (レス) @page27 id: 4f57f42090 (このIDを非表示/違反報告)
あたり(プロフ) - 最近この界隈に戻ってきて転生と外せかのシリーズを読み返していたのですがこれは読んだことなかったなと気付き読み始めたら…感動しました……外せかはガチで泣きましたけどこの作品も相当良かった……なんで当時読まなかったのかが不思議です…ありがとうございました (2022年4月17日 12時) (レス) @page27 id: f83fcb16fe (このIDを非表示/違反報告)
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