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次に会ったのは一日空いてからだった。いつもと同じようにそこに座っている彼女に安堵したのを覚えている。
冴が自分の名前を告げると、少しぶっきらぼうに「……A」と言った。その日、また日が落ちるまで横にいた。
ほぼ毎日彼女と会うようになって冴の人生はそれまでと変わった。冴の世界にはいつもサッカーが大きくあって、そこに弟である凛がいた。そこにあの日から彼女──Aが棲みついた。それを快いと感じている自分がいるその事実に、いつも驚きと言葉にできない感情が冴の胸を柔く締め付ける。
冴とAは近くに住んでいるのに通っている学校が違ったから、専ら会うのは河川敷のみで。別に横にいなくても彼女の視線が自分に向いていれば良かったはずなのに、同じ学校だったらどれほど良かったかと思い始めた頃にはきっと既に彼女に毒されていたのだろう。サッカーの練習でそこへ向かうのと同じくらいAにも会うことも目的のひとつになっていた。これは、恐ろしい程の変化だった。
横に並んで過ごす日もあれば、彼女がただ冴の練習を見ているだけの日もあった。そこに凛が居ることもある。最初は警戒していた凛もすぐに彼女に懐いたのだから、血は抗えないなと思った。3人で並んでアイスを食べたり肉まんとあんまんを分け合ったりするような日々を、きっと冴は愛していた。
四季の全てに彼女はいたから。儚く散りゆく桜も夏の夜空を彩る花火に一面を染めた紅葉、深々と降り注ぐ雪だって。それらが冴の目に映るそのとき隣には彼女がいた。それは、Aを愛おしいと思うには充分すぎる時間だった。
サッカーって楽しいの、ある日彼女がボールをつつきながら口にした。彼女は冴の傍にいたが別段サッカーに興味はない様子だった。その変化に冴は目を丸くする。
「…急にどうした」
「冴が、楽しそうだから気になっただけだよ」
胸がまた締め付けられる。サッカー以外に興味のない冴にAが運んできた世界がある。音楽だったり本だったり、彼女はそれまで冴が関心を持たなかった世界を冴に教えた。もちろん押し付けることはなく、Aが好きだと言っていたなと冴が勝手に手に取っていただけだったが。
冴の心は、酷く満たされた。
自分の世界にAが新たなものを運んできたように自分にもそれができたのだと。彼女の世界にたしかに冴が根付いたことを知って、どうしようもなく胸が熱くなった。彼女の中を占めるのは自分がいい。漠然と思っていたそれに名前がつく。
─────それは、紛れもない独占欲だった。
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いろは - めちゃめちゃいいところだ、、、!更新待ってます!頑張ってください! (2023年3月10日 20時) (レス) @page11 id: d047947d5b (このIDを非表示/違反報告)
M - 続きの話待ってます。頑張ってください (2023年2月7日 20時) (レス) @page4 id: 56a51bd1b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:國枝 | 作成日時:2023年2月7日 16時