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「…さ、え」

随分と長い白昼夢を見ていたようだ。白昼夢、ではないかな。あれは全て現実だった、過去のこと。……匂いや質感まで思い出すような、それに胸が焦がれた。


しにたいと思ってばかりの人生だった。それがしぬなら今がいいになったこと、実は凄いことだって冴は知らないんだろうなあ。冴は私にとってそれほどに、


ここ数年は昔に戻ったみたい。時間が過ぎていくのをただぼーっと待つだけの機械みたいな生活。冴を人生から消したら空っぽだった、というだけのつまらない話だった。


ソファに横になったまま、心臓の上に手を置いた。ずきずきと胸を苛む痛み。冴を失った痛みだ。そして、この痛みを忘れたくないと思っている。他の誰より愛した人はもういない。失ってしまった。二人の物語は終わって、エンドロールが流れている。残されたものは、この耐え難い痛みだけ。これさえ失くしてしまったら、冴がくれたものはもう何も無い。

なぜなら、形のある貰いものは全部捨ててしまったから。手元にあったらいつまでもそれに縋る自分が想像にかたくなかった。ただでさえ惨めな人生を、冴か唯一彩ってくれた人生を、目も当てられないほど惨めにするのは嫌だった。自分のプライドが、その弱さをゆるせなかった。


しかし、その選択を今でも時折後悔している。



「……物を捨てたのは、逆に失敗だったかなあ」


Aは笑った。自分でも意外なほどうまく笑えた気がした。


「形に残るものがあれば、せめて思い出に出来たかもしれないのに」

手元に何も無いからこそ、何度も記憶を辿ってしまう。Aは冴を思い出したことは一度もない。忘れたことがないのだから、当然だった。



冴に別れを告げられてから、5度目の冬が来た。

身の凍るような別れに泣いていた自分はもういない。それが大人になったということなのか、Aにはよくわからない。形だけ取り繕って大人になってもいつまで経ってもあのときのまま進めていない気さえしてくるのだ。時間が全てを解決させるなんてそんなことは、ない。

冴がいない季節に、色んなことがあった。まだこんなに辛いことが残っていたんだなと思うようなことも沢山。それでも、生きていた。冴がいなくてもちゃんとかはわからないけど、生きていられた。冴は、きっともう自分を忘れていると思った。あの約束もそろそろ時効だろう。

早く春が来たらなあと、まだふわふわとした頭で今は思うだけだった。

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いろは - めちゃめちゃいいところだ、、、!更新待ってます!頑張ってください! (2023年3月10日 20時) (レス) @page11 id: d047947d5b (このIDを非表示/違反報告)
M - 続きの話待ってます。頑張ってください (2023年2月7日 20時) (レス) @page4 id: 56a51bd1b3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:國枝 | 作成日時:2023年2月7日 16時

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