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名前を知ったのは、二度目のときだった。前回名前を聞き忘れたと言って「糸師冴」彼はそう言った。同じように名乗ったらちょっと嬉しそうな顔をしていた、と思う。
二度があれば三度もあるし、そのうちたまに弟だという凛もやって来るようになった。最初は少し警戒されていたけど、気にせず可愛がっていたらそれなりに甘えてくれるようになってうれしかった。
学年が上がってもそれは変わらず、気が向いた時にといってもほぼ毎日そこで会うようになった。
河川敷には、日が沈むのを見に行っていたのに。ただ時間が過ぎるのをそこでしにたいと思いながら待っていただけなのに。気付けば私の目的は冴に会うことになっていた。
冴のサッカーを見るだけのときもあれば、彼が横に来て話すこともあったし私の下手くそなキックを見て珍しく大笑いしたこともあった。笑った顔が好きだと気付いたのは、多分そのとき。
冴に会えるなら、父親に暴力を振るわれようが耐えられた。今死んだらもう会えなくなるんだなと思うのが一番嫌だったから大人しく抵抗もせずにそれを受けた。
会うのは河川敷だけっていうのが、私にとっては丁度よかった。そのときくらいはちゃんと取り繕って綺麗な私で会えたから。家にいる時のボロボロの私じゃ冴の前にはとてもじゃないけど現れられない。
そうやって生きる目標のような存在を見つけていたからバチが当たったのか、顔を殴られた日があった。
いつもは周囲の目を気にして服で隠れる場所にしか手をあげないくせにその日は虫の居所が悪かったのか、肘が頬を抉った。普通に青アザができて、いたくて。
冴に会いたくないとこのとき初めて思った。
「……顔、よく見せろ」
アザが引くまで河川敷には寄らずに居ようと決めた。帰り道ではあるから通らずにはいられないけど見つからないうちに通り抜けてしまえば、と思っていたのだ。それなのに、それなのに────冴が私の手を掴んだ。
「やだっ、さ、え…みない、で」
情けなくて、逃げたくて、必死に抵抗したのに。全部冴が受け止めてそのまま私を抱きしめたから。
涙が出たのだ。
冴の腕の中はあたたかくて、安心できて、息ができた。
私の顔にあるアザを見て露骨に顔を顰めたあと、冴はやさしくそこに触れた。──痛みは、なかった。
頬に手を添えられたまま、冴の顔がゆっくりと近付く。目をぎゅっと瞑れば一番近い距離で「……A、」と大好きな声が私の名前を呼んだ。
冴の熱と私の熱が混ざって、しぬなら今がいいと初めて思った。
中学生になる少し前のことだった。
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いろは - めちゃめちゃいいところだ、、、！更新待ってます！頑張ってください！ (2023年3月10日 20時) (
レス) @page11 id: d047947d5b (このIDを非表示/違反報告)
M - 続きの話待ってます。頑張ってください (2023年2月7日 20時) (レス) @page4 id: 56a51bd1b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：國枝 | 作成日時：2023年2月7日 16時
