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凛は腕の中にいる女の涙を拭いながら、いつも泣かされてやがると思った。彼女はいつだって兄の​─冴のそばに居た。冴のそばにいたのだから、凛のそばにいるのも当たり前のようなものだった。幼少期は凛を真ん中にしていつも3人一緒だったというのはアルバムを見返せば馬鹿でも分かる。

本人に口にしたことはなかったが、凛は彼女を​─​──Aを姉のように感じていた。家族に向けるような、身内に対しての情のようなものを確かに彼女にも持ち合わせていた。兄の傍で笑う顔と、涼やかだけど優しく凛を呼ぶ声が好ましくもあった。当時の凛は兄っ子だったが不思議と嫉妬のような感情はなく、彼女と兄が幸せでいてくれることを願ったりもしていたのだ。



今凛の腕の中の彼女はどう足掻いたって泣いてると言わざるを得ない顔をして「泣いてない」なんて言ってのける。そのまろい頬を透明な滴が伝っていくのを確かに見たというのに。それを放っておけるほど情のない相手じゃない。​───それは、絶対に潰すと決めた兄の女であっても。


「りん、」

ひらがなを更に平べったくしたような発音でAは凛の名を呼んだ。その声だってじっとりと涙が滲んで震えている。細い呼吸の音が苦しげに静寂の中に響き、その音に合わせて華奢な背中は小さく上下した。

自分の腕の中にすっぽりと収まる彼女は、凛が思い描くいつもの彼女ではない。Aは冴の前でしか泣かなかった、から。凛はあまりAの涙を知らない。抱き締めたことも幼少期を除けば、ない。腕の中に収まってぴったりと自分にくっついた女を見てこんなに小さかったんだなとありふれた感想を抱いた。


「わたし、冴のじゃなくなった」


「……は、」


精々喧嘩だと思っていた。あまり数は多くないが共にいる年月分喧嘩をしたことだってそれなりにあって、それで彼女が泣くこともあったからだ。ここまで酷い有様は勿論見たこともなかったが。



冴の人生にもういらないんだって。

その言葉が彼女にとってどれだけ残酷で惨い言葉なのか、冴が知らないはずもないと言うのに。


全身の血が沸騰したかというほどに、凛の身体は熱くなった。怒っている、燃えている、矛先は全て​──()だ。
兄が何を考えているかは分からない、知らない、分かりたくもない。ただ、自分が好きだったストライカー(憧れた姿)人間()もいなくなってしまったことだけはっきりとわかった。


「……潰す理由が一つ増えただけだ」


次会ったら殺す、その言葉にAは何も言わなかった。

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いろは - めちゃめちゃいいところだ、、、!更新待ってます!頑張ってください! (2023年3月10日 20時) (レス) @page11 id: d047947d5b (このIDを非表示/違反報告)
M - 続きの話待ってます。頑張ってください (2023年2月7日 20時) (レス) @page4 id: 56a51bd1b3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:國枝 | 作成日時:2023年2月7日 16時

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