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たまにボールを蹴る彼女の下手くそなキックが案外好きだった。勿論ピッチ上ならキレ散らかすどころかそんな下手くそ不能にしてやるが、彼女はサッカーを知らないただの女だったから。あちこちに飛ぶボールを全部カバーする冴を彼女は凄いと言う。心のどこかが埋まる音がする。天才サッカー少年とメディアで取り沙汰され日本のサッカーを担う存在とまで言われる男が、だ。

簡単に折れてしまいそうな足で繰り出されるそれが冴にとっては価値があった。



「冴のサッカーしか知らないもん」

下手くそと笑ってやればどこか拗ねたような顔でAは笑った。そうして彼女が繰り出した言葉を耳にした途端、冴にはどくりと自身の胸が脈打つ音が聞こえた。背筋を震わすそれは​──歓喜だった。

自分しか知らないと言ったAへ湧き上がったこの感情は純粋めいたものではない。どろりとした重さを含んでいるのは冴も自覚したところだ。優しくしたい、ほんの少し意地悪したい、そばに居たい、そばにいて欲しい。こんな感情は知らない。今まで経験したことがないものだから。


ただ一般的に位置づけるのなら恐らくそれは、恋だった。サッカーだけの人生だった。そこから少し離れたところに弟ひいては家族がいるだけの人生。それを不満に思ったこともなかったというのに、気付けば最も自分に近しいところで笑うようになった彼女のせいで冴は変わった。それを悪い変化だとは思えなかった。

だからこそ大切にしてやりたい、まだ自身の気持ちは告げなくていい、そう判断した。




Aは多分、少し特殊な家に生まれていた。この場合の特殊はあまり良い意味ではない。彼女の口からそれを聞かされたことはないが、十分なほど傍にいたのだから察しが良くなくても分かる事だった。


どれだけ暑くても肌を晒すようなことはなかったし、時折顔を歪めながら体をさすったりしていたから。その体に見せたくない何かがあるというのは分かっていた。
冴と凛の家族の話に耳を傾ける彼女の目は眩しいものを見るような、そんな目をして。
何かがあるなら救ってしまいたかった、好ましい相手なら尚更のこと。彼女に害なす全てをこの手で払い除けたいと思った。そうすることが愛だと思った。


それでも、冴にはなんの力もなかった。いくらサッカーが上手かろうがその場において冴はただの子供でしかなかったから。彼女の手を引いて安寧を与えることなどできはしない。

早く大人になりたい。そして世界一のFWになった自分の傍にはAがいて欲しい。


そう、本気で思っていたのだ。あの日までは。


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いろは - めちゃめちゃいいところだ、、、!更新待ってます!頑張ってください! (2023年3月10日 20時) (レス) @page11 id: d047947d5b (このIDを非表示/違反報告)
M - 続きの話待ってます。頑張ってください (2023年2月7日 20時) (レス) @page4 id: 56a51bd1b3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:國枝 | 作成日時:2023年2月7日 16時

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