桜、蛍、楓、雪(2)

るなぱあく ページ48

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「うわ 懐かしい！」

君はやっと散歩に出られた犬みたいに

勢いよく車外に飛び出して行く

そんなに慌てなくても

消えて無くなったりしないのに

そんな事を思いながら

僕の足もちょっとだけ浮き足立つ

僕らの生まれる前からあるこの場所

子どもたちの歓声も相変わらずで

沢山の家族連れで今日も賑わっている

「あの木馬まだあるんだ！」

子どもよりも大きな声を出して 君が指さしたのは

古いけど横一列に並んだカラフルな木馬

値段も佇まいもあの頃のまま

幼い日の僕らが木馬に跨って

はしゃいで乗る影が揺れてる

「そういや 緑の馬が空くまで乗らない！って粘っていた事あったね」

「それは君だろ？他が空いてるのに意地になって待ってんだもん。僕が先に乗り終わっても」

「だって好きな色に乗りたいじゃん」

そう言って君は木馬に跨がろうとするけど

流石に小さくて壊してしまいそう

そんな事 解り切っているのに

今度はお預けをくらった犬みたいに

君は寂しそうに項垂れてる

「じゃあさ あれは？」

僕が指をさしたのは飛行塔

「あれなら僕たちでも乗れそうじゃない？」

さっきまでしょげていた君が目を輝かせた

「よし！緑乗ろ！」

僕の同意はまだ得てないのに

気持ちは既に空を見上げてる君

相変わらずせっかちだなと苦笑して

僕らは緑の飛行機を目指した

飛行塔から見えた景色は当たり前だけど

昔より高さも遠さも感じない

広く感じた機内もコンパクトで

大柄な君は押し寿司みたいに縮こまる

「ここから実家は見えないね」

そんな言葉を満面の笑みを浮かべながらも

淡く切なく零す君

「そんなの当たり前だろ？」って返そうとして

何故か僕は口を噤んだ

久し振りに都会から帰省して

どうしてこの場所に僕を誘ったのか

理由はよく解らないけど…

想い出を辿って童心に戻るというよりも

大人になった事の再確認をしている様だと

……君を見てなんとなく思った

「この街にいた頃は 早く抜け出したくてしょうがなかったのになぁ…」

背後でポツリと零す独り言

僕は聞こえないふりして小声で呟く

「いつでも帰って来ればいいんじゃない？そんな場所があれば……ちょっと気持ちが楽になるでしょ？」

聞いてるのか、聞いてないのか

返事はないけど……それでいい

疲れた時はまたおいで

飛行塔に乗って下界を眺めたら

きっと気持ちが晴れるよ

「ありがとう」って言葉が

耳元を掠めて地上に降り立つ僕ら

ね、今度は何乗ろうか？


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