桜、蛍、楓、雪(2)

雨色ソーダ水 ページ45

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今日は朝からついてない

徹夜で仕上げたレポートを

うっかり忘れて

気付いたのは学校に着いてから

片道一時間の距離じゃ

取りにも戻れないあとの祭り

正直 それだけでも

負の撮れ高ばっちり案件なのに

不幸は連鎖するようで

お気に入りのペンを無くしたり

A定食が目の前で売り切れたり

スマホの充電が切れ

そんな日に限って充電器忘れるし

ギリギリで電車を逃した上に

次の電車は事故で遅れ

ダイヤは乱れてやっと着いた帰路

ついてない日は

とことんついてないらしく

空が急に暗転して土砂降りの雨模様

慌てて逃げ込んだ軒先

これは止みそうにないとか

天気予報の嘘つきとか

折り畳み傘 持って来れば良かったとか

理不尽な文句を心の中で呟いて

大きな溜息を一つ吐いた

しばらく空と地面を

行ったり来たりのにらめっこ

雨が小康状態になったら

ダッシュで家まで走ろうかな？

濡れるのは嫌だけど

それしか方法はないかな？

頭を巡る出来れば避けたい案に

気持ちが固まりかけた時だった

すっと伸びてきた手

握りしめているのは傘

どこかで見た場面だと

なぜか他人事みたいな思考

視線を上げれば

そこに立っていたのは

柔和な面立ちのエプロン姿の男

「良かったら これ使って下さい」

ますますどこかで見た光景

戸惑いながら交互に男と傘を見れば

優しく笑みを浮かべる男

クシャッとして緩む顔に

警戒心はいつの間にか消える

「雨 当分止みそうにないし」

「そうなんですか？」

「僕の勘 結構当たるんですよ」

そう言って手に傘を握らせて

男は手を振りながら

向かい側の建物に入って行く

それは老舗感漂う喫茶店

ここってまだ営業してるんだ

古いからやってないのかと思ってた

エプロンしていたから

この店のマスターかな？

だったら傘より喫茶店に誘えば

ちょっとは儲かるのに

…欲のない人…なのかな？

様々な感情やいろんな考えが

怒涛の様に押し寄せて来て

振り払う様に傘を開けば

透明なエメラルドグリーンが広がる

窓から喫茶店を覗けば

中はそこそこ混んでいておじさんばかり

カウンターの中の男と目が合う

そっと頭を下げれば返す会釈

まるで秘密を共有したみたい

歩き出せば鮮やかな緑越しに雨粒

ぱちぱち当たって弾け飛ぶ

まるでソーダ水の中にいるみたい

あんなについていなかったのに

そんな気持ちはすっかり消えて

足取り軽い帰り道

お礼がてらにあの喫茶店へ行こう

注文するのはもちろんソーダ水


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