常識人は苦悩する ページ39
「俺は、自分が正しいと思えることがしたかった。それだけや。
…なんて言ったから、お前は怒ったんやろ?俺より真面目なお前は。
きっと、優しい奴やからこそ、お前は涙を流せた」
自分は流せなかった涙を流しているチーノに、コネシマは語りかけた
彼はエゴイストだ
自らの正しいと思ったことを他人に押し付け、それで周りを振り回す
しかし、チーノは違う
一般的な、常識人と呼ばれる枠の人間だ
だから、罪人を裁く
だから、罪人のために涙を流す
だから、自分のために涙を流す
「なぁ、お前は断罪人何て向いてへん。人を助ける仕事をしたらえぇ。
そして、仲間を見つけるんや。俺はそれで変われた。だから変わった」
コネシマが呟いた後、黙っていたグルッペンが口を開いた
そこには憎悪がない
彼は不思議な人間だ
自分にとって大切なものを奪った人間に対して、情けをかけるのだ
否、それは情けでも、同情でもない
それは自らの野心のために心を殺しているに過ぎない
(俺が欲しいと願ったものを殺してまで、それを求めるのか。
俺はそれが心から欲しいと願ったのに。なんて、筋違いも甚だしいか)
「チーノ。取引だ。私はグリムを返してほしい。
君は何を望む?私はそれを可能な限り叶えてやろう。さぁ、望みを言え」
蛇のように鋭い瞳が、チーノの瞳を貫いた
全てを見透かした血に塗れた瞳
全てを受け入れた澄んだ紅の瞳
「お、れは…」
二面性を持つのは、抱えているのが二つの人格だからだろう
「俺はッ!人を殺すのはうんざりや!俺が殺してきた人の中に何人無実の罪に問われた人が居た!?
魔女狩りの再来と言っても過言では無い意味もなさない裁判、
それで生きていく俺が心底腹立たしかった!
やから、やから」
チーノの瞳が動揺と怒りで揺れる
迷いが、チーノの瞳を曇らせ、揺らす
それをわざと掻き立たせるように紅はそれを見つめ、細める
「…グリム、おれは、どうすれば………」
「私が決めることじゃない。貴方も分かっているはず」
今度こそ、曇りの無い女の声が響いた
それはグルッペンが追い求めた声
チーノが追い求めた声
追い詰められたチーノに差し込む一筋の光のごとく、凛としていた
「だいたい、そんな事を罪人に問う時点で答えは決まっているようなものでは?」
図星を突かれたチーノは肩を震わせる
グルッペンはこのチャンスを逃すまいとたたみかける
「君は、グリムの良い友人に成りたかったのだろう?」
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